Moon Lady (ページ48)

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Episode 46 【ココアサイダー】ページ48

理香子の言葉で民衆の怒号や罵詈雑言が消えた。
彼女の声は、俺にも届いていた。

…きっと、目の前にいるレディーにも。

「よかったな、理香子は俺たちの事を愛していると言ったな。」

「貴方みたいな男がお嬢様の名前を口にしないで！」

余計に怒ったミス倉木は、俺にめがけて刀を突きつける…名前呼びは地雷だったか。

けれど俺もそこまで気長には戦えない。愛する人が待ってるんだ。早く終わらせてしまおう。

「いい加減にしないか」

「うるさい！アンタなんか後から来たくせに！私からお嬢様を奪ったくせに！！」

目の前で刀を振り回す彼女の瞳から、ぼたぼたと雫が落ちる。
それを拭わず、俺を殺そうとしている。

「ミス倉木、君は丹波家に拾われた捨て子なんだってな」

「ッ!?どうして、それを…」

「娘と歳の近い使用人が欲しかった先代当主…丹波雄一郎が君を見初め、ご令嬢に仕わせた。」

「それ以来君とご令嬢は『ご主人と使用人』ではなく『昔からの親友』のような関係で、君はそれを心から嬉しく、誇りに思っていた。」

「君は気づいていないようだが、ご令嬢は今でも君のことをとても信頼している。君がご令嬢を裏切り、今此処で俺と戦っていてもだ。でないと此処へは戻ってこない。」

分かるか？、そう問いかければ彼女は俯く。

そして刀を落として泣き崩れた。

「お嬢様の、っお傍にいられることが…、っ私の誇りで、私の全てなの…」

「なのに、どうして貴方が現れたのよ！貴方は、怪盗で平民でお嬢様とは住む世界が違うのに何で！！」

「お願いします…私から、お嬢様をとらないで……！」

泣きながら俺に請う彼女は、とても悲しい物だった。あの時の俺に向けた敵意の視線とは打って変わって、弱々しい。

彼女の刀を足で蹴飛ばして手の届かないぐらい遠くへと滑らせる。

「…それは俺が義理ではないが、ご令嬢が君を見捨てたり嫌いになったりしないさ。
さぁ帰ろう。ご令嬢が心配して俺たちを待っている。」

「っう、うわぁぁぁ！」

『夢月夜の舞姫』にはこんな一節がある。

『愛は時に愛する人を貫いてしまう殺意となり、殺意の本質は愛する人を愛せない苦しみと悲しみからなりうるものである。』

事実は小説よりも奇なり、まさしくそうだ。

「ただいま」