Moon Lady (ページ39)

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Episode 37 【Laurence】ページ39

「ねえ、倉木」

　冷たい光を放つ月の下、輝く星をぼんやりと眺めながら、私は裏切り者のメイドへと、小さく声を掛けた。

私が宝石展で今回着るであろう、ダークマゼンタのドレスのしわを丁寧に伸ばしながら、メイドは静かに振り返る。

「…何でしょう、お嬢様」

「貴女にとって、私は何？」

それは、素朴な疑問であった。いつか私もこんな立場故に、結婚だってするであろう。わざわざ、こんな私に執着する必要はないだろうに。

　メイドが小さく笑う声が、やけに鮮明に聞こえた。私はこんな時でさえ悩んでいることを透かして見られているようで、なんだか気に入らない。

「…私にとってお嬢様は、仕えるべき主であり、愛すべき令嬢であり。そして＿＿」

メイドがわざとらしく息を吸ったので、思わずそちら側を見てしまう。綻び一つ、汚れ一つ無いメイド服に、洗練された動き。

彼女はにっこりと、微笑んだ。

「自ら磨くべき、原石です。」

「…そう」

私は視線を、硝子越しの夜空に戻す。宝石展の開始まで、もう数分しか残っていなかった。

・

「皆様、本日はお越し下さり誠に有難う御座います。是非、魅惑の宝石の世界を、ご堪能下さいまし」

　そう、適当な挨拶を済ませ、宝石展は無事始まった。以前よりも多い警備員に、あの例の警部もいる。怪盗シャルル専任なのだろうか。

因みに私と『貴婦人の夢』は、怪盗シャルルの予告時間より前に別部屋待機となった。そこも警備員に、倉木まで居るらしい。

「無事で居てくれれば、それで」

別に貴婦人の夢も、私も、最悪、諦めてくれたって構わない。ただ、あの子供達に悲しい思いをさせることは、したくなかった。

ぎゅ、と拳を握る。

「理香子さん！」

そう呼ばれて、は、とすると、私はそちらの方向へ笑顔を作った。取り敢えず、挨拶回りをしようか。