Moon Lady (ページ27)

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Episode 25 【Laurence】ページ27

「…！」

　はた、と気付けば、そこは自室のベッドの上であった。やってしまった、なんて思う。もう泣かないと、とうの昔に決めた筈なのに。

「だって、あんなに優しい声で言われちゃ、色んな気持ちが溢れちゃうわよ」

　誰に言うでも無く、言い訳をする。彼の声は他の誰より優しく、包み込むように暖かくて。つい本音が溢れてしまった。

今まで誰にも気付かれることなんて無かった。私は完璧に、丹波理香子を演じていたのに。彼はさらりと現れて、私を『丹波』から引き摺り出した。

そう思えば、なんだか無性に悔しくなってくる。先程から、頬のあたりがずっと暖かいのだ。たぶん、今の私は、凄い顔になっている。

「私を、こんな気持ちにさせるだなんて…」

　ばか。

何かやり返さないと気が済まない。私の悪戯心がぞくり、と動く。そう、どうせなら、彼を驚かせるような＿＿。

「よし、良い事思いついちゃった」

・

「宝石展、ですか？」

　そうして壮大な悪戯を考えた私は、倉木にへと相談に来る。彼女は美味しい紅茶を淹れてくれながら、少し不安そうな表情をした。

「ええ。今度は私が、怪盗シャルルに挑戦するわ。汚名挽回したいのよ」

私が考えた悪戯。それは、怪盗シャルルへの挑戦。彼が挑戦を受ければ、私が彼と会う口実になるし、彼が挑戦を断れば、多分きっと、私の汚名は挽回されたことになるだろう。

どちらに転んでも、私の勝ち。

「ですが宝石展には何か、目玉になる物が無いと、怪盗シャルルには挑戦出来ませんよ？」

「そうね。…だから、目玉はこの『貴婦人の夢』にするわ」

「それって、“夢みる花嫁マリーナ”の婚礼を記念して作られたっていう、あの宝石ですか！？」

＿＿“夢みる花嫁マリーナ”。

それは、フランスの貴族であった娘“マリーナ”がとある男性に恋をしたが、貴族という立場故に別の男性との結婚を迫られる。

だが、最後まで恋した彼が忘れられず、毎日塔の上で彼を思い月に舞い踊り続け、ついには誤って塔から転落し死んでしまうという、悲しい伝承。

「そうよ。『貴婦人の夢』は、お祖母様から頂いた品なの」

　だから、もし勝負するのなら、容赦はしない。だって悔しいんだもの。彼に惚れかけてることが、なんて。

「お嬢様、楽しそうですね」

「ええ、楽しいわ。＿＿とある人の驚く顔が見れると思うと、ね」

「…分かりました。旦那様には此方から伝えておきます。お嬢様は、展覧会を宣伝するための準備を。」

「分かったわ。」