Moon Lady (ページ25)

今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:2,367 hit

Episode 23 【Laurence】ページ25

「それにしてもスピカルって頭が良いのね。私より利口かも」

　司が「教えてくれ。」だなんて格好良く決めた横から、私はスピカルの小さな頭を軽く撫でて微笑む。がく、と彼から力が抜けるような音がしたが気にしない。

「まず、私が話す前に。貴方はこれから、私の秘密の共有者になろうとしてるの。＿＿この意味、分からないとは言わせないわ」

「…、ああ」

「なら良し、ありがとね。…少し長くなるかもしれないけれど、しっかり聞いてよね」

声が震えていないか、少し心配だった。

・

「知っているでしょうけど、私は丹波理香子。丹波財閥十八代目当主…に、なる予定の世界一の令嬢です。これくらいは調べれば出てくるわね」

　ちょっと冗談を混ぜて言えば、彼は小さく笑ってくれる。これから丹波財閥の全てを話すということは、暗い話も混ざってしまう。

その前に少し息を吸って、吐く。私が丹波について話せば、彼は秘密の共有者。不安に震える腕を背中に回してそっと隠し、唇を開いた。

「単刀直入に。丹波財閥が何故こんなに恐れられているか、って話なのだけれど。それには現当主、つまり私のお父様が深く関わっているわ」

また、息を吸う。暫し沈黙が訪れた。話すのも、一苦労。言葉に出す度に嫌な思い出が溢れ出す。どんなに嫌な男でも、父親なことに変わりは無い。

「お父様は、資金を様々な場所に回して…簡単に言えば、『お金を出すかわりに嫌な奴や嫌なことを排除して』という契約を様々な分野の人間と結んでいるの」

「は？」

それでも私は、話を続けた。

　丹波の全て。財閥として成長するために、あの男はどれだけの犠牲を払ったのだろうか。どれだけの人間が傷を追ったのだろうか。

不意に、泣きたくなるのを我慢する。ごめんなさい。私がもっと早く、自立していれば。せめて、という思いで、必死に言葉を紡ぐ。

「…私も昔、一回だけ、お父様の“接待”に連れ出されたことがあるの。酒を飲み金を投げ、の最悪な祭。私は、とある人に連れ出されかけて＿＿って、ごめんなさい。これは関係ないわね」

　はた、と気付くと慌てて笑顔を取り繕う。『令嬢とは当主の人形でしかないのだ。』なんて、前、そんなことを言っていた父を思い出す。

私は、人形でなんかでいたくない。
けれど彼を、そんな理由で振り回して良いものか。決めた筈なのに、思考はぐるぐる、固まらない。

「降りたくなったら、何時でも言って頂戴ね。貴方を責めたりなんかしないから」