Moon Lady (ページ3)

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Episode 1 【Laurence】ページ3

「理香子、お前は令嬢だ。」

　いきなり何よ、と問い掛けることも出来ない。知ってるわ、これを脅しと言うのでしょう、お父様。逃げられない、私のための罠。

「…ええ、分かってるわ、お父様」

　それじゃあね、と電話を切る。鬱陶しい当主様から漸く開放されて、私は小さく息を吐いた。もっとお嬢様らしくしろ、だの、丹波財閥を背負う者として誇りを持て、だの。

お父様は何時も、そればかり。

おかげで28になっても、浮ついた話ひとつ無し。まあ、丹波財閥のことを考えれば、幾らだって結婚相手は居るのでしょうけれど。そんなんじゃつまらない。

「大事なのはスリルよ、スリル」

　誰も居ない、鍵の掛かった自室。そこで私は、漸く私を出すことを許される。そう呟いてみれば、口角が自然に釣り上がった。きらきらの、私だけの言葉。

大きな硝子窓からベランダへ出れば、くるりくるりとターン。昔はピアノもバレエもやらされた。その時の記憶は残っている。ステップ、ステップ。そして、星へ願え。

「怪盗も、海賊も、このさい魔物だって、なんだって構わないわ。私にスリルをくれるなら、この身なんて捧げたげる！」

　ふ、と夜が運ぶ静けさ。分かってる、願ってもこないことくらい。頬をなでる冷たい風に身体を震わせて、私は鳥籠の中、否、自室へ戻る。

お気に入りの曲を口ずさみながら、不意に泣きそうになる自身の身体を自身で抱き締めた。駄目よ、理香子。貴方は丹波のご令嬢。泣くなんてはしたないことはしなくていいわ。

「…、」

　はあ、と息を吐く。そのままベッドへと寝転んだ。今日はまだお風呂にも入っていないけれど、まあ、後で起きて入れば良い。今はもう、眠気に任せて瞳を閉じた。

明日はもう少し、ましな世界になりますように。