【文スト】ふぅん、私に逆らうんだ？【太宰治】

53#彼奴 ページ9

〈国木田side〉

俺の出社時刻は定時の五分前。

他の社員は大抵俺の後の時間に続々と出社してくる。

太宰の奴は論外だ。顔すら出しに来ない日もある。

俺は一応探偵社の中では早い方なのだ。

だが、何時も俺より先に居る奴がいる。

立原A。

誰よりも早く来て花の水を替え、戸棚の中の乱歩さんのお菓子の有無を確認。

無ければ自ら率先して、必要に応じて買いに行く。

花は完全に枯れる前に新しいものへと変わっている。

一度早めに出社した時、其の光景を見かけ、訊ねると、

自分の日課だと答えた。非番の日以外はやっていると云う。

人のために動き、仕事が早く、頭の回転と其の腕前で難事件も容易く解決。

賢治に並ぶ程に成績は優秀。

書類も何時も丁寧に仕上げて持ってくる。




___________然し。




何故だ。

今日も五分前出社をしたものの、誰も居ない。

多少なり、違和感を感じる。

非番ではない筈だが…

否、まだ定時ではないのだ。

彼奴が早いだけで、時間迄は未だある。

そう自分に言い聞かせる事で、珍しいとは思いながらも其れ程気に留めていなかった。

…そして遂に時計の秒針が定時を過ぎた。




真逆。



最悪の事態が頭をよぎり、意を決してAに電話を掛ける。



然し其れは俺の予想の斜め上を行く結果となった。

あの唐変木と仕事を無断欠勤の上、

デ、デ、デェトなど…っ！！！

べ、別に不慣れな単語に動揺などしていない！

俺の理想にはAがあの包帯無駄遣い装置と逢い引きする事など書いていない。


「国木田、アンタ如何したんだい？」


「…固まってる。」


与謝野女医と鏡花につつかれ、その体勢のまま床に倒れ込む。

彼奴が無断欠勤をする日が来るなんて思っていなかった。

…帰ってきたら説教だな。

遂に太宰の毒に侵された彼女。

全力の説教だ。






________同情など一切せんからな。

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