【文スト】ふぅん、私に逆らうんだ？【太宰治】

86#取引の詳細 ページ43

木箱の上で鳴いている蟋蟀。
何か小さく音が聞こえると共に、其れは瞬時に鳴き止んだ。


徐々に近付いてくる気配。近付くにつれて大きくなる、革靴が混凝土を叩く音。


其れは云わずもがな、今回私達が対峙する組織のものである。


今回の依頼内容は｢最近活発化している危険非合法組織の確保｣。お得意様からの依頼だから、絶対に失敗するわけにはいかない。


国木田さんに詳しい話を聞いたところ、其の組織は影で力を集めている異能犯罪の集い。


捜査に勘づかれるなり奴らは拠点をコロコロと変え、更には足を追えないことで、警察の捜査も中々に難航しているらしい。


いい例えなんてしようもないから、悪い例えをすると、まるで黒光りする素早いアイツのよう。…うっ、考えるだけで寒気がする。


今回の作戦内容はこうだ。


"こちら側"の人間の誰かが、向こうの組織の長に取引の話を持ちかける。そして頃合を見た取引役の合図のタイミングで、向こうの長を取り押さえる。


そんなに上手く話が行くものか。誰もがそう思うだろう。然し、其の組織が取引には長が向かうという情報は事前に私が、マフィアの方から兄経由で手に入れていた。


だから、リーダーを取り押さえるという目的としては高確率で失敗することはないだろうと思う。


問題は、取引役がこちら側であると少しでも疑われれば、即殺される(ゲームオーバー)などという状況下にあるということ。


普通そんな危険伴う役など誰も引き受けたくないというのが本音なのは分かっている。


然し運のいいことに、依頼主の部下に率先して其の役(ポジション)を希望する方がいた。


一見気弱そうで、サラサラの金髪が似合う、如何にも優男といった青年。


日に当たると輝く翡翠色の瞳が綺麗な印象を受けた。


先刻から、ちらりと物陰で様子を窺っている限り、まだあの青年は来ていないらしい。


流石にあの取引相手を待たせるのは拙いんじゃないかな…


その想いは2人も同じようで、賢治くんも谷崎さんも緊張した面持ちで、唇を固く真一文字に結んでいる。


其の時頬に伝った冷や汗が、何か嫌なものを知らせているように感じた。


木箱に止まっていた蟋蟀は、いつの間にかいなくなっていた。

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