【文スト】私が絶対に決まってるだろう？【太宰治】

元マフィアの ページ41

此処は暗い。

正直云えば何も見えない。

下を見れば、奈落の底。吸い込まれそうな暗闇が、呼んでいる。

上を見れば、果てしない闇。何かが降ってくるような感覚に襲われる。

何方を向いても黒が迫って来る様で。

だけど、私には判る。

爆発音にも似た重低音。

先程火花が上がった箇所に触れると、ボロッと愉快な音を立てて指と同じサイズの穴が開いた。

アレは、マフィア時代聞き慣れたトカレフの銃声。

あの音に加え、貫通力の高さから断定できる。

マカロフの方が性能は良いし、普通好き好んで使う事は無い。

…間違いない、お兄ちゃんだ。

兄の道造は、トカレフの二丁拳銃を愛用している。

先刻頭上から降ってきた声も、確かに兄の声。

何でこんな場所に来てるんだろう。

黒蜥蜴の殲滅任務と重なったとか？


『話しづらいから鳥渡降りてきてよ。』


「…降りて大丈夫か？」


何云ってるの、と思わず吹き出す。

呼んでるのに。

あっ、若しかして。


『足場の事？問題ないよ。事情聞きたいし、早く！』






嗚呼。

何故私は此の時、否。もっと早く気付いていなかったの？

一つの可能性、其れに気付いていたなら。

今私は、両腕を後ろで掴まれ、こめかみに拳銃を突き付けられている。

兄と同じ、トカレフを。


「降りてきたぜ？なぁ、嬢ちゃん。お前かぁ？前にうちの仲間二人潰したってのはよぉ！」


カタストロフはただでさえ人数が少なかった。

そんな中二名も潰えたなら策は一つしかない。

新入りを入れる事だ。

此奴横目で見ると、顔は全くお兄ちゃんに似ていない。

話す声は同じなのに。


「へへっ、俺の異能にまんまと騙されちまってよ！！」


降りて良いのか聞いてやったのに、なんて鼻で笑った後、

横でベラベラと己の異能について語り出した此の男によれば、

此奴が持っているのは半日以内に傷付けた相手の声を奪う異能。

声帯をコピーするような物らしい。

莫迦みたい。こんな奴、ポートマフィアじゃとっくに死んでるわ。

其れが本当なら、自ら弱点を晒すようなものなんだから。


『…貴方は、兄を傷付けたと。そういう解釈であってます？』


「ま、そういう事だなァ。」


じゃあ、生きては帰さない。

脚を思いっきり、跳ねるようにして持ち上げる。

身体の重心を後ろへ掛ける。

所謂バク転のような姿勢を、掴まれたままとった感じ。

体勢を崩して転んだ敵のこめかみに中てた拳銃。

此れも、トカレフ。


『元マフィアの体術遣いですから。』

最悪の再会→←銃声

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