最終話 Flavor ページ37
月日は流れ、ローズパーティー当日となってしまった。私はコウジの服の裾を握り締め、優しく微笑んだ彼に頭を撫でられて手を離してしまう。
もっと話したいことがあったはずなんだけれど、なんだっけ。言いたい言葉が何一つ出てこなくて、私はみんなと一緒にオバレを見守る。
オバレの三人とは色々あった。ありすぎて思い出話さえ上手くできない。涙はみんなの頬にも流れている。私だけじゃない。ファンも――この場にいるみんなが悲しんでいる。
コウジはアメリカに行ってしまう。
カヅキはエデロをやめてしまう。
みんなバラバラになってしまう。
旅立ちの時なのだ。そう自分に言い聞かせて、私は聖を見上げた。
「……借金、コウジが本当に全額返すの？」
「あぁ。……すまない、私がもっとしっかりしていればこんなことには……」
「……謝らないで」
「君にもたくさん迷惑をかけたね」
でも、エデロがそんな窮地に陥っていたから私はここに戻ってきたのだ。だからそんなに謝らないでほしい。私がここに戻った意味が、何一つなかったんだってことになってしまう。
「良かったね」
ただ一言言葉を添える。
私は『Flavor』を最後まで見ることも、コウジの旅立ちを見ることもなくこの場から去った。
「どうして泣いているの？」
涙で前が霞んで見える。だから誰かわからない。
「……私のやってたことに、意味なんてなかった」
知らない人なのに答えてしまった。中性的な声だった。
「勝手に必要とされてるって勘違いして、勝手なことばっかして、結局何もできなくて、好きな人に全部負わせちゃった……その荷物を、軽くしてあげたかっただけなのに」
「……君は、また同じことを繰り返しているんだね」
「……え？」
「……何回も、何十回も、何千回も…………きっとそうやって終わらない輪廻を生きていくんだろうね」
その白髪の少年は、憐れみを浮かべた表情をしていた。
「それが君への罰なら、僕は受け入れるよ」
踵を返し、去っていく彼は。
「好きな人ができたなら、すぐに身を引いた方が君の為だよ」
変なアドバイスを残して闇夜に消えていく。
私は無言で彼を見送り、覚束無い足どりのまま山に帰って羅生門家の跡を継いだ。テレビもネットもない世界にプリズムの煌めきは届かない。だから私は、彼らの物語があの後どうなったのか知る由もないまま子孫を残すこともなく生涯を終えた。
END
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作者名：鬼童輪廻 | 作成日時：2018年8月5日 0時
