自分なんてどうでもいい ページ42
大事なことはそんなことじゃない。私はリンクに視線を落とし、べるとの決着のことだけを考える。
「なっ……！」
「A、そんなこと言ったら許さないよ」
肩に再び手を置いたヒロは、私のことを怒った瞳で見つめていた。
『おまえよりも蓮城寺べるの方が強いんだからな！』
瞬間、そんな言葉を思い出した。
「ユウ」
ユウはヒロに呼ばれ、二人で一緒にレッスン場から去っていく。私は下を向き、独りでユウのことを考えていた。
べるとバトルをする日はあっという間にやって来て、私はハッピーレインやベルローズ、エーデルローズの全員が見ている前でステージに上がる。
プリズムストーンのステージを貸し切って行われる小さなライブだったが、何故か今まで以上に緊張していた。
大丈夫。私は強い。音楽の「魂」が見えるから――！
瞬間、『inferno』のイントロが流れ出した。私は歌いながら、私を見上げるべるを見つめる。
ねぇ、べる。私と貴方はストリートとアカデミーだったから、なかなか勝負をする日が来なかったよね。私はストリートの女王で、貴方はアカデミーの女王。立つステージは違うけれど、私にだってアカデミーとして仁に鍛えられた過去がある。
どちらが本当の強者なのかずっとわからずじまいだったけれど、今日で全部終わりにしよう。私は、私の力の残滓を振り絞って貴方と戦うから――！
「ハァッ！ ヘブンスプラーッシュ！」
「！！」
「二連続！ ヘブンズ・ゲート 天使の鎮魂歌！」
ヘブンズ・ゲートが開き、中から大勢の天使が飛び出す。赤子の彼らが歌う歌は、死者――みんなの心を安らかにさせるものだ。
「三連続！ 傷ついた天使は堕天する！！ 煉獄の炎 ファイアーインフェルノ！！」
その赤子の天使たちが一気に堕天していく様を地獄の門から眺めながら、私はステージを炎で燃やし尽くす。
「四連続！」
『来たッ！ Aさん！ 俺を地獄に落としてくれぇぇぇぇ！』
「貴方と共に地の果てへ！ 地獄心中！ 無限ハグ！！」
私は地獄の門から滑り落ち、門の中へと吸い込まれていった。堕天使も、みんなも、相手を選ばずに地獄へと引きずり落として最深部でハグをする。
「五連続！」
『あれは……『羅生門 鬼切演舞』じゃない？！』
「枯れていた心がときめいていく……！ 雛鳥の愛！ 夢恋時雨！」
地獄に小雨が降ってくる。私は小さな翼を広げ、高い高い位置にある地獄の門を一人で見上げた。
→第十一話 √β
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作者名：鬼童輪廻 | 作成日時：2018年7月22日 23時
