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形跡の薄れた部屋で ページ21

太宰side

彼女が連れ去られて二週間が過ぎた。
ちゃんと血を飲んで居るだろうか。
また知らない男の玩具になってないだろうか。
怪我してないだろうか。

「太宰さん、大丈夫ですか」

ふと目を向けると敦くんがマグカップを片手に此方を見ていた。

太宰「何でもないよ」

敦「でも、顔色悪いですよ。隈も酷いし…」

太宰「……そんなにかい」

敦「そんなにですよ。鏡見て下さい」

はい、と手渡された手鏡に写った自分は本当に酷い顔をしていた。
確かに何時も以上に眠りが浅い自覚はある。
まともなご飯も食べていないし、酒ばかりが喉を通っていく。
でもそれだって飲みたくて飲んでるわけじゃない。
自分に飲まされている感覚だ。
彼女を失っただけでこんなになってしまう自分が嫌になる。

太宰「……少し外の空気を吸ってくるよ」

敦「え、あの、太宰さんっ」

敦くんに止められる前に探偵社を出る。
幸い国木田くんは乱歩さんのお供でいない。

暫く何処に行くでもなく歩き、行き着いた川辺に座る。
入水する気にもなれない。
女性に声をかける事も今はしたくない。
彼女が居なくなって数日した頃、一度そこら辺で捕まえた女性と遊びに行った。
けれど接吻の一つさえする気になれなかった。
Aじゃないから。

私は私が思ってる以上にAの事が好きらしい。
前もそうだ。彼女が居なくなっただけで身体の調子がおかしくなる。


溜息を一つ落としてまた足を進める。
無意識に辿り着いたのは社員寮だった。
少し寝たら気分が良くなるだろうか。
いや、眠れそうもない。けれど探偵社にいても心配をかけるだけだ。
携帯を出し敦くんに今日はもう帰ると連絡をした。
自分らしくないのは十分わかってる。

部屋に入り布団に寝る。
この前まで薄っすらと残っていた彼女の匂いも今は薄れてなくなってしまった。
彼女は確かに居たのに何処にもその形跡がない。
私の記憶の中にしか存在していない。
今すぐ抱きしめて接吻をしたい。

ふとAの泣いてる声が聞こえた気がした。
寂しいのかな。怖いのかな。慰めてあげなきゃ。彼女は人一倍怖がりで臆病だから。

そう思っているとドアを叩く音が聞こえた。
……A?
探偵社の人じゃない。普通はインターホンを鳴らす筈だ。なのにノックをした。
考えている間にもノック音は続いた。
ドアに近寄る。
一人かな。外から話し声や足音は聞こえない。
誰だろうと少しの期待を胸に扉をゆっくり開けた。

唯一の→←彼に会えないなら



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設定タグ:文スト , 太宰治 , 紅野   
作品ジャンル:恋愛
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紅野(プロフ) - まんじゅうねこさん» ありがとうございます!ゆっくりですが頑張ります! (2018年10月21日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
まんじゅうねこ(プロフ) - 続編移行おめでとうございます!!!此れからも頑張って下さい!!!応援させていただきます!!! (2018年10月20日 22時) (レス) id: 5748b81071 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅野 | 作成日時:2018年10月19日 21時

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