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二十八言目 ページ32

目が覚めると間接照明でオレンジ色に照らされた天井が見えた。


まだ生きてるんだ。


嬉しい様な苦しい様なよくわからない感情が押し寄せてきた。
お風呂入りたい……。
服のまま川に入ったためびちゃびちゃだったんだろう。少し乾いた今、湿っているのが濡れてるのよりも気持ち悪い。
体の向きを変えればテーブルやカーテンの閉まった窓が目に入った。
よく知ってる場所。自分の家。
ソファーの上に毛布に包まれて寝かされてる。
わかったのはそれだけ。

ん?ここが家って事は中也が?
でもなんで気づかれた……?
ぐるぐると何処に失敗があったか記憶を遡らせていく。

貴方「あぁ、そっか。太宰か」

「彼奴の方が好きか?」

声に出るほど納得したその原因の名を聞いて大好きな声が少し棘を含んだ状態で飛んできた。

貴方「え?」

中也「いや、何でもねェ」

はぐらかす様に言い放った中也は声とは裏腹に目は何処か優しかった。
心配してくれたのかな……。

中也「風呂入って来いよ。……立てるか?」

貴方「大丈夫」

ゆっくり立ち上がる私を彼は隣で支えた。
私の歩く速さに合わせてくれるのがまた迷惑をかけているようで辛い。
いや、迷惑をかけているのは確かだ。

脱衣所につき立ち止まると彼はくるっと方向を変え部屋を出ていこうとした。

中也「何かあったら呼べよ」

貴方「うん」

それだけ言うとリビングに戻って行った。
彼なりの気遣いだろう。
湿った服を洗濯機の前に雑に脱ぎ風呂場のドアを閉める。
シャワーを浴びながらふと考えた。

中也は何処か先生に似ている。
先生も自分より人の事考えちゃう人だった。
別にそこだけじゃないけど似てる。


私が先生の所に引き取られたのはもうそこそこ大きくなってからだった。
七歳の時。小学一年生の時に先生の所に連れてかれた。
最初は頑張ってお父さんって呼ぼうと思ってた。
けれど、先生は家で勉学を教えていた人で毎日家には学生さんが来て先生と呼んでいた。
それが原因で私も何時しか先生と呼ぶようになった。
先生は一度もそう呼ばれるのを嫌がらなかった。
また一人生徒が増えてしまったか、と笑って冗談のように言うくらいだった。
今も先生の事は人として尊敬してる。
別に異能を持っていたわけじゃない。強かったわけじゃない。人並みに賢く、人並みに面白い。
先生が他の人と違った所。それは中也と同じで人の事を凄く考える所。

だから何処か先生みたいな中也に無意識に憧れ、惚れたんだと思う。

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設定タグ:文スト , 中原中也 , 紅野   
作品ジャンル:恋愛
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紅野(プロフ) - お白湯さん» コメントありがとうございます。やっぱり同じになる人多いですよね。いつも名字つけようか迷ってつけるのですが読む人にとったらどうなんでしょうか……。 (2019年1月13日 22時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
お白湯 - 夢主ちゃんの名字が、私の本名の名字と読み方違うだけでびっくりしました(笑) (2019年1月13日 1時) (レス) id: fa6e0c5cd0 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 聖宮さん» ありがとうございます!頑張って書こうと思います! (2018年10月1日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
聖宮(プロフ) - 寧ろ書いて欲しいです、続編楽しみに待ってます! (2018年10月1日 20時) (レス) id: 956436ae5b (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 月詞さん» ありがとうございます!いつもゆっくり更新ですが頑張りますね! (2018年9月28日 19時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅野 | 作成日時:2018年4月15日 0時

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