▷たまには一緒に徘徊しようよ ページ5
K.Sakurai × 彼女
付き合う前は、彼はかなり冷たい人間だと思っていた。恋愛とか興味無さそうだし、結婚願望もないと言っているし。
だが、付き合い始めると意外と甘かった。意外と。
半分くらいは予想通りだった。スキンシップが多いわけではないし、好きだとか愛してるだとかそういう言葉をくれるようなタイプではない。
でも、もう半分はかなり意外だった。
私が新しい服を着ていれば、｢それ新しいの？ええなぁ｣って必ず気づいて褒めてくれる。記念日は絶対に忘れないし、今日も私が残業だってグチグチLINEすると最寄りの駅まで迎えに来てくれる。
『お待たせ』
｢待ってへんよ、お疲れ｣
仕事終わりに来てくれたであろう彼の手を私から握って、私の家まで送ってもらう。この時間がルーティーン化してきていることに少し幸せを感じながら、彼の手を握る強さを緩めたり一気に力を入れたりする。私のかまちょにはだいたい塩対応だけど、この距離感がなんだか居心地がいいんだ。
｢明日さ｣
『ん？』
｢俺、午後からやから泊まってってもええ？｣
そう、これも彼の意外なところ。
自惚れかもしれないが、彼は私の家に泊まるのが大好き。かなりの頻度で私の家に来るし、最近は私の家に少しずつ彼の物が増えていっている。
『いいよ、私は朝から仕事行っちゃうけど』
｢せやんな、今日も残業やったんに大変やな｣
『健一朗の方が絶対に忙しいから！なのにいつも甘やかしてくれてありがとね』
｢別に、甘やかしてなんかないし｣
同棲している訳でもないのにわざわざ夜に迎えに来てくれたり、繋いでいない方の手で持っているコンビニ袋にだって、私の好きなお酒が入っていたり。自分は呑まないくせに私の晩酌中の話し相手になってくれたりするだなんて、かなり私は甘やかされていると思う。
『ただいま〜』
｢ただいま｣
『おかえり〜』
私がそう言うとフフっと笑う彼。
彼の顔を見上げると少しニヤッとしながら私の方を見ていて、私も見つめ返そうとしていたら頭をグッと掴まれた。
『え？なに？私からのおかえりにときめいた？』
｢あぁもううるさいうるさい、早よ手を洗いなさい｣
意外と分かりやすい所もあるくせに、私がそれに気がつくと誤魔化そうとしてくるところが私にとってはたまらなく愛おしい。赤く染まった彼の耳を眺めては私もついニヤケてしまう。
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作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
