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雨の日は嫌いだ。
洗濯物は乾かないし、荷物は濡れるし、髪型は決まらないし。
でも、雨の日にしかできないこともある。
基本、劇場の近くは2人で歩かないようにしている。
付き合っていることを公にはしていない私たちにとって、応援してくださっている方はもちろん、周りの芸人に見られることもできる限り避けたいことである。
でも、雨の日は違う。
道行く人はそれぞれの傘の下に自分の世界をつくって、雨音にのみ耳を貸す。すれ違う人がどんな顔をしていて、何を話しているのかだなんて誰も気にしない。
だから、私たちも雨の日だけは、劇場終わりに大きな傘の下で二人の世界をつくる。
大吾と同じ公演がある日の、帰り道の雨だけは、嫌いじゃない。
『あ、靴紐結んでいい？』
「ん、ええよ。そんな同時に両方解けることある？」
『なんかすぐ解けんねんな、この靴』
「多分やけど靴のせいちゃうで」
『ちゃんと結んでるつもりやねんけどな』
本当に自分の中ではちゃんと結んでいるつもりだ。結び方は合っているはず。でも、すぐ解けてまう。
『ごめん、ありがとう。行こ』
「膝濡れてへん？大丈夫？」
『さすがに路上に膝はつかへんかな、しかも雨降ってるし』
「Aちゃんならやりかねへんかなと思ってんけどなぁ」
『おい、バカにすんな』
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「ただいま〜」
『おかえり〜、先入って。荷物、そこら辺おいてええで』
大吾くんの家よりも劇場から近い、という理由で私の家に2人で帰ってくる。
私に言われた通り、先に部屋に入って手洗いうがいをして、当たり前のようにソファに座るその背中を眺める。
右肩だけでなく、私のために濡らしてくれた背中。
“蝶々結びした後にもう1回余った日も結べば解けなくなるよ”
なんて、周りから靴紐の結び方の豆知識を貰ったこともある。
でも、大吾くんの前ではそんな豆知識忘れてしまう。
靴紐を結ぶ私のために少しだけ屈んで、自分の背中を濡らしながら傘を差し出してくれる彼が好きだから、2人で歩く帰り道の雨は、嫌いじゃない。
だから私は、靴紐の結び方を覚えられない。
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作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
