▶︎ちょいとそこのお嬢さん ページ23
M.Hirai × 同期
2015年の冬、まだ私は若かったと思う。
劇場の出番終わり、若手の財布に優しい居酒屋で飲むのが1番の楽しみで。今日は平井くんとサシ飲みに来た。
「今日はもう疲れた、飲む」
『確かに今日はなんか疲れたなぁ、何も爪痕残してへんのに』
「そんなことないでしょ、ほらあれとかめっちゃ笑ったし」
そう言っていつも私たちのネタを褒めてくれる平井くんは、かなり居心地がいい同期。なんなら、家も近くだし1番ご飯に行く回数は多い気がする。
『平井くんはたくさん肯定してくれるから、なんか逆に申し訳なくなってくるわ』
「いやいや、別に無闇矢鱈に肯定してるわけちゃうで？」
『ほんま、そういうところよな。平井くんのええところ』
「え？」
『なんか、炎タイプっていうよりは水タイプって感じのオーラ？』
「なんやそれ」
優しい、という一言で表現するには物足りない、不思議な彼の雰囲気。不気味ではなく、不思議。
お笑いに分かりやすく燃えて、暴れるように藻掻く同期はたくさんいるけれど、平井くんは静かに燃えて、藻掻いて、歩んでいる。
でもその不思議なオーラが、彼を好きになることをしり込みさせていた。
『まぁ、居心地がいいってことよ。いつも褒めてくれるし、感謝してます』
「…じゃあ、今日はもうちょっと付き合ってよ」
『ええで、どうする？ほかの店行く？』
ベロベロになるまで酔うことはお互いあまりないけれど、何となく話し足りない時は遅くまで飲む。特に話したいことがあるわけではないけど、2人で飲んで、とりあえず発散した気になる。
「あ〜、今あんま手持ちないねん。」
『じゃあ私の家で飲む？平井くんの家でもええけど』
「俺ん家やろ、Aの家やとすぐ寝るやん」
これも別に初めてじゃない。
家が近い同期が平井くんしかいない、というだけの理由で平井くんの家でお酒を飲んでグダグダして、眠気に負ける前に家に帰る。
『今日は飲むで〜、平井くんの気が済むまで！』
「Aだって飲みたいくせに」
居酒屋を出て、家に向かう。
冷たい風に少し酔いを覚まされて、今日はちょっと遅くなりそうやな、とか考える。
『家にお酒あるん？買うてく？』
「あ〜、うわ、あったっけ。あったような気もする」
『じゃあ家にあるに賭けて早く家に入れてくれ、寒すぎる』
「急に早足やん、待ってや」
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作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
