▷伝えるには、まだ早い ページ20
K.Tsuji × 後輩
この頃、何だかパッとしない。
私の心が曇っていたって、日常は何事も無かったかのように時を進めるのだから、くよくよしていたってしょうがないということは分かっているのだけれど。
楽屋の隅で1人、携帯を眺める。
その話題が流れてくるのは私の弱りきった心にはまだ刺激が強すぎて、SNSを見るのさえ億劫になる。
出番終わり、相方とネタの改善点を話し合ってM-1に向けて調節する。コントをやらない私たちは、1年かけてこの時期に合わせて勝負ネタを作る。
一通りお互いが言いたいことを言い終われば次の出番まで自由な時間。相方はすぐ、同期の元へ行ってしまう。
1人になるとネガティブになってしまうって分かっているのに、仲良くしてくれている芸人が今に限って見当たらなくて。もっとたくさん色んな人と仲良くしておけばよかった、と後悔。
携帯を見るのは心に不健康。
そう察して、とりあえず体を起こして。
何かしらお菓子でも貰いに行こうと思い、立ち上がろうとすると出入口から聞こえる好きな人の声。
私、貴方のせいで今すごい落ち込んでるんですよ。
貴方にとっては、知らんこっちゃないんでしょうけど。
そう心で呟いて、深く息を吐く。
好きな人である前に、芸人として尊敬する人。
貴方のネタが大好きで、貴方のセンスに憧れて。
たくさんアドバイスを貰ったり、一緒に企画ライブをやったり。そうやって少しずつ共有する時間が増えていって。
気がついたら、好きになっていた。
また楽屋の隅にうずくまって、ネガティブの渦に吸い込まれそうな心をどうにかして正常に戻そうと試みる。どんな時でも彼は周りに明るく振る舞っているのに、私がなんでこんなに落ち込んでるんだ。そう、言い聞かせる。
よし、お菓子だ。お菓子を貰いに行こう。
そう思い、勢いよく立ち上がると近くから「うわっ！」と言う声がした。
「お前いつからそこおったん！？」
わざとらしく驚くのは兎さん。
せっかく影を潜めてたのに。遠くで談笑する彼をチラッと、一瞬だけ見る。きっと貴方のことをこんなに気にしていることも、貴方は知らないのだろうけど。
『すみません、驚かせて』
「マジでビックリしたわ、いるなら言えよ！」
『いや、そんな驚かせるつもりなかったですって。兎さんがビビりすぎなんすよ』
「いや、そんなことはないわ」
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作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
