Laundry. (ページ15)

今日:1 hit、昨日:17 hit、合計:86,860 hit

．ページ15

．

『めっちゃ足にかかったんやけど！』

「も〜、何してんだよ」

『だって楽しいんやもん』

君がいつだかのライブで言っていた、“芸人はさすがに恋愛対象外”という言葉。

7月のサイダー、君が零した。
遠くに聞こえる花火の音で僕はかき消した。
君への、片想い。

．

あれからもう何年経っただろう。
バイトは必要もなくなるくらい劇場で楽しませてもらってる。
新展開を心のどこかで期待して、何も出来なかった私には恋愛なんて向いてないのだろうか。

『この前の企画ライブ、めっちゃ楽しかった』

「あ〜、同期の辞めていった仲間たちね、懐かしい名前たくさん出てきたよなぁ」

『私達、意外と長いこと芸人やってるよね』

「どうした、そんな急に」

『何か懐かしいな〜って、この感じ。』

「懐かしいね」

何だかぎこちない空気が流れる。
きっと今、思い出している景色は同じだろう。
あの後、何となく気まずくてお祭りのことは誰にも言わなかった。
大人というか、おばさんに近づいて、あの夏の私たちは誰から見ても“いい感じ”だったと思い返す。

「…お祭り、楽しかったよね」

『…うん』

「Aのことだから忘れちゃってんのかと思ったよ」

そうやって笑う健人の優しさに、どれだけ自分は甘えてきたのだろう。夏の夜風は涼しくなくて、心もあまりスッキリしない。

『…サイダー、奢ってよ』

「えぇ？まあいいけどさぁ」

お祭りを今日もやっているなんて奇跡は起こらないけれど、どことなくあの夏の雰囲気と似ている気がして胸が躍る。

「瓶のサイダー、今はドンキで売ってるらしいよ。サイダーっていうかラムネだけど」

『えええ、ムードもへったくれもないやん』

「ドンキにムード求めるのは無謀すぎかー」

『流石にやな』

健人の奢りでサイダーを買ってもらって、劇場の裏入り口に向かう。