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『キッチンお借りします』
｢俺も手伝うで｣
『お、さすが優男やな』
｢何やそれ｣
優しくするのはAだから、なんてキザな台詞は言える訳もなく彼女が料理する姿を見つめる。
｢今日は何を作ってくれるんですか｣
『本日は麻婆豆腐となっております』
｢お、ええなぁ｣
『堂前、豆腐切ってや』
｢はいよ〜｣
彼女は他の男にも手料理を振舞っているのだろうか。誰かに振舞っていたとしても、せめてこうやって2人で作っているのは俺だけやったらいいなと足掻いてしまう。
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『よっしゃ！食うで！』
｢いただきます〜｣
『召し上がれぃ』
｢…で、今日の要件は？｣
『よくぞ聞いてくれました、堂前さん』
ビールを一口呑んでから、彼女が話し始める。
『この前さ、めっちゃ気になる人いるみたいな話したやん』
｢あ〜、あの高身長男子か｣
『そうそう、それでこの前ご飯行ってさ。うわめっちゃええ感じやん！っていう空気やったのよ。』
話を聞いているような雰囲気で相槌を打つが、好きな女の恋愛話を優しく聞けるほど俺には余裕が無い。
『それで、ご飯屋さん出てもう1件行くかな〜って思ったら急にホテル連行させられそうになって。』
“もう少し紳士な人やと思ってたわ〜”と項垂れる彼女。こうやって項垂れていく男運のない彼女を何回見てきただろうか。
｢Aさ、ホンマに男もう少し慎重に選んだ方がええで｣
俺が話し始めると顔を見上げる彼女。
普段はあまり余計な口出しすることがないから少し驚かせてしまったかもしれない。
｢前の彼氏には浮気されて、その前の好きな人はヒモ男で。｣
また項垂れ始める彼女の目線に、俺から合わせに行く。
この部屋の暑さにのぼせてしまったのか、俺の口からはどんどん言葉が溢れていく。
｢俺は経済的にも自立してるし、ずっと一途やで。｣
『…え？』
｢おまけに、こんなに好きな女がずっと近くにいるのに1回も手出してないし。な、紳士やろ？｣
こっちを不思議そうに見てくる彼女の目線に持っていかれそうになるから、今度はこっちから目を逸らす。
｢…好きになってや、俺の事。｣
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作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
