． ページ2
．
お店に着いて、向かい合って座る。
辻さんがなんだか余所余所しく感じるのは気の所為だろうか。
店内を吹き抜ける春にしては湿っぽい風が、私たちのなんとも言えないぎこちない雰囲気をより重くしている。
｢あのさぁ｣
『…はい』
｢健人と、何喋ってたん｣
『え？…健人とですか？』
思いもよらない質問に言葉が詰まる。
嫉妬心で渦を巻いていた私と同じようなことを辻さんが考えていたと知り、もしかして嫉妬か？なんて自惚れてしまう。
『辻さんのこと、健人が褒めてましたよ』
｢え？なんやそれ｣
『女の子のスタッフさんの手伝いしててカッコよかったって』
そう言ってもあまりピンと来ていない様子の辻さんは、本当に無意識のうちにそういう気遣いをしているのだろう。
『辻さんは、さっき何話してたんですか？スタッフさんと』
｢…Aの話してた｣
『え、ホンマですか？』
｢Aさん最近どんどん可愛くなってません？って言うてはったから、その良い女、俺の彼女やでって言ってやろうかと思ったわ｣
私の顔を覗き込んで、少し口角を上げる。
そうやって冗談っぽく言う彼は狡い。
『なんですか、それ』
｢お？照れてる？｣
『照れてないです〜！』
顔を隠すようにラーメンを食べることに集中する。良い女、という響きが良すぎて勝手に余韻に浸る。
茶化された仕返しに、私も辻さんをからかってみせる。
『辻さん、健人に妬きました？』
｢え？…なわけないやろ｣
照れると辻さんは分かりやすく目を逸らす。
それに気づいているのはきっと彼女の私だけ。
『まったく、素直やないんやから』
｢そんなんちゃうわ｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 561人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：L | 作成日時：2022年5月4日 0時
