金木犀に包まれて (ページ4)

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3.売れない歌手ページ4

＜ベッキョン＞

「ベッキョンくんはねぇ…歌は上手いんだけどねぇ…」

「はい…」

「なんか、こう…恋愛ソングを歌うのはいいよ？若者の…Z世代？ってやつ？にはね、恋愛ソングが受けやすいからねぇ…けどね、なんか君が歌うとねぇ…」

「俺が、歌うと…？」

「薄っぺらいんだよ。君、ろくな恋愛してきてないだろ？」

ギクッ

目の前の禿げたオッサン…あぶねぇ。事務所のお偉いさんに、痛いとこを突かれる。

「そこが問題かなぁ…いや、声も良いし歌はすっごく上手いんだよ？あとは表現力の問題っていうか…人生経験かねぇ…」

「…はぁ」

ビョンベッキョン、24歳。

高校卒業と同時に歌の養成所に入り、そのままトントン拍子で養成所を運営する芸能事務所に所属したものの、現在では売れない歌手をやっている。

売れない理由は…先ほどのオッサン、事務所のお偉いさんに言われた通りなのかもしれない、と、最近素直にそう思い始めた。

“君の歌には心がこもってない。ただ歌の上手い人だ”

散々そう言われて来た…なんでだろうなぁ。

恋愛も、それなりにしてきた…それなり、かぁ。

付き合っては別れてを繰り返して、今に至る…

今まで、本気で誰かを愛したこと、あっただろうか。

『ベッキョン…本当に、私のこと好き…？』

『ベッキョナ…なんか、私ばっかり、馬鹿みたい』

『ベク…私たち、別れたほうが、いいよね？』

…なんでだよ。

いつもそっちから告白してくるくせに、あっちから別れを切り出される。

俺の恋愛、間違ってんのかなぁ…。

そんな感じで恋愛でも、得意だと思っていた歌でも、自分に自信を無くして…今、結構人生どん底かも。

ぐぅ〜…

「あー…腹減った…」

最近、ろくな食事してない気がする。

金、無いしなぁ…。

お腹いっぱい、って、どういう感覚だっけ。

カバンから財布を取り出す。

「いち、にー、さん、しー…」

入っていたのは、硬貨、計390円、お札、0円。

やべ。いくら明後日ばいとの給料日といえど。

「390円でどうやってお腹いっぱいになれってんだよー…」

そう嘆きながら、ふと、視界に入った文字。

“月曜昼数量限定ハンバーグ390円”

「…あった」

ちょうど、390円。

数量限定…？

「やばっ！」

急いでその喫茶店に駆け込む…と。

「うわっ！」

「うおっ！」

バサッ…

身体への衝撃と共に、宙に舞う紙束。

その中にいる、女性。

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