29.募る寂しさ ページ30
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ベッキョンが、売れた。
売れた、といっても、まだまだテレビでよく見かけるような売れっ子歌手とまではいかないけど。
業界内では、それなりに話題になっているらしい。
「ねぇ、ベッキョン。あのさ、今度の日曜日…」
「んー…いや、この曲の後はやっぱり…でもここで雰囲気をガラッと変えたい。けどなぁ…」
売れてから、変わったような気がする。
ずっと、ライブのセトリを考えたり、次に出演するラジオの話のネタを考えていたりしていて。
約束通りリビングにはずっといるけど、話す頻度はどんどん減っていく。
ベッキョンは…私のこと好きなんだよね？
実験を始めて2ヶ月。薬の効果が切れたのかな？
そう思って何回も計算とシュミレーションし直しを繰り返しても、最初の結果と変わらない。
途端に、私は不安になった。ベッキョンと話す時間が減って、寂しくなった。
…1人じゃ、足りないんだ。被験者は。
大丈夫。最初はうまくいっていた。ベッキョンが売れてしまったから、こんなことになってしまったんだ。
ベッキョンは、実験中のものを途中で止めることはできないし、今までと引き続き効果を見るとして。
新しく…増やせばいいんだ、被験体を。
私は、そう考えた。
「ギョンス、またこのチラシ、貼ってほしいの」
被験体募集のチラシを、またギョンスのお店に持って行って、お願いする。
「え…ベッキョンは？最近たまにラジオで彼の歌が流れてくるけど」
「ベッキョンも…引き続き、実験を続けるけど、新しく増やそうと思って」
「増やす、って…」
ギョンスはその整った眉毛をしかめた。
「Aにとって、ベッキョンはただの被験者なの？」
私にとっての、ベッキョン、かぁ…。
普通の被験者とはちょっと違う。
一緒に住んで、たくさん話して、仲良くなった。
「ともだち…？」
「…へぇ。友達ね。ベッキョンはAのこと、好きみたいだけど」
「うん、知ってる。でもそれは薬飲んでるから」
「…あのさ、A」
ギョンスは、私の目をしっかり見る。そのガラス玉のような綺麗な目に見られると、昔から目が逸らせなくなる。
「人の気持ちを、無理矢理薬でどうこうしようなんて、やっぱり僕は賛同しない。良くないよ」
ギョンスの言ってることは、いつも正しい。でも。
「…そう。まぁギョンスが協力してくれなくても、別の所に貼ってもらうし」
私は、寂しい。愛されたい。
その私の気持ちは、どうすればいいの？
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作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
