28.新しい被験体 ページ29
＜ベッキョン＞
今の、Aに恋をしている気持ちで、歌う。
A本人からのその提案は…
実に、合っていたらしい。
「ベッキョンくん！良いね！この曲の雰囲気、ベッキョンくんにぴったりだよ！」
「ほ、ほんとうですか？」
「うん！他の人のところにも持って行ったんだけど、君が一番似合う！ぜひ、次はこの曲でやってみないか？」
「は、はい！」
そうして完成した新曲、『UN Village』。
俺も、少し作詞に関わった。
あの日の丘の上で眺めた街の景色を、夜の月を眺めていたことにしたりして、よりロマンチックに。
ゆったりとしたR&Bの楽曲。
歌を出すと、自ら売り込みに行ったり、SNSで宣伝したりする。
そして、にわかに話題になった。
“安心する落ち着いたセクシーな歌声”
“曲のグルーヴ感にマッチしていて完璧”
“目を閉じれば情景が浮かぶような表現力”
少し忙しくなり、地方のラジオやイベントに参加して、家を空けることも多くなった。
事務所も、「これからはベッキョンくんに力を入れていこうと思う」と言ってくれた。
順調だ！
順調、だった。
そう、思っていた。
休みが少なくなって家を空ける時間は長くなったものの、晩ご飯は一緒に食べてるし…たまにスタッフさんとかに誘われて外食するけど。
約束通り、なるべくリビングで過ごしてるし…次のライブのセトリとか演出考えたりしながらだけど。
それでも、Aの俺への態度は、特に変わらなかった。
いつものように朝試験薬を飲んで、夜は健康診断。
一緒にいる時はおしゃべりして…まぁ俺は仕事しながらだけどさ。
Aとの関係性も…特に、変わらなかった。
今のこの仕事が落ち着いたら、Aにもう一回告白して…とか、考えながら。
気付けば、一緒に住み始めて2ヶ月が過ぎていた。
そして、それは本当に、突然のことだった。
「…え、誰」
「今日から新しく被験者になった、パクチャニョルさん」
「あ…パクチャニョルです！えっと…ベッキョン、だっけ。同い年らしいから、よろしく！」
家に帰ると、知らない男がいた。
Aと一緒に、リビングで話していた。
顔良しスタイル良し、明るくて元気そうな男。
俺に向かって、キラキラした顔で挨拶してきた。
「…どういうこと、A」
俺は途端に、ソイツに敵対心を覚えた。
「新しい被験体だってば。1人じゃ、不安になったから」
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作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
