金木犀に包まれて (ページ28)

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27.丘の上でページ28

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「わぁ…ビルとかマンションがたくさん…」

「夜だったら、夜景綺麗かもね」

Aが行きたいと言った丘に登り、そこにあったベンチに並んで座り、街を見下ろす。

俺たちの今住む高級住宅街が、ちっぽけに見える。

夕焼けに真っ赤に染まっていて、熱に浮かされてるみたいだ。

もしあの高層マンションが熱に溶けて消えても、今の俺たちは何の影響も無い。

そう思うと、なんだか強くなった気がした。

「ベッキョンはさ…将来、何になりたいの？」

Aが、ふと聞いてきた。

「なんで急に?」

「んー、そんなロケーションかなって」

脚をぷらぷらさせながら、Aが俺を見上げる。

「俺は…やっぱり、歌手として売れたい」

「歌手ねぇ…歌上手だもんね」

「うん…でも、歌が上手いだけ、だってさ」

「どういうこと？」

『なんか君が歌うとねぇ…』

『俺が、歌うと…？』

『薄っぺらいんだよ。君、ろくな恋愛してきてないだろ？』

「俺が恋愛ソング歌うと薄っぺらいってさ」

「え？ベッキョンって結構恋愛経験豊富じゃなかった？」

「まー、そうだけどさ」

俺だって、マトモな恋愛してきたつもりだったよ？

「なんかさぁ、今まで、俺、自慢じゃないけど追われる側だったんだよ。モテたからさ〜。だから、恋愛に本気になれなかったんだと思う」

でも、さ。

隣で、いまいちピンとこなさそうに俺を見上げるAの顔を見る。

分からないよな、俺の気持ち。君には。

「今は、追う側っぽい。初めてだよ、こんなの」

「追う側…」

「うん。好きって言っても、響かないみたいだし。俺どうしたら良いわけ？俺が一方的に好きみたいでさぁ」

君、君のことだよ、Aくん。わかっているかね。

「…じゃあ、今なら良い曲歌えるんじゃない？」

「え？」

「だって、愛されてる〜、って歌はあんま聞かないけど、愛してる〜って歌はたくさんあるじゃない。今の気持ちを持って歌えば、薄っぺらくなくなるんじゃない？」

「…なるほど」

ついつい最近はAのことばかり考えてしまっていたけど、俺の本業は歌手。

その考えがあったか。

「…なんかさ、できそうな気がする」

「ほんと？」

「うん！ありがと、A！」

「どういたしまして〜」

Aはそう言うと、買いもの袋の中から買ったキャンディを取り出して包装紙を剥ぎ、ガリッと噛んだ。

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