26.実験者と被験体 ページ27
＜ベッキョン＞
「…嫌？私がタバコ吸ってるの」
「…嫌だよ」
「なんで？」
「だって…」
吸っている時の、何かを忘れようとしているような、何かを探しているような、何かを求めるような、なんとも形容し難い、そんな顔。
「嫌だから。長生きしてよ」
どの表現もしっくりこなくて、ちゃんとした感情を伝えたいからと、別の言葉を言った。
「長生き、ね…」
フッ、とAが笑う。
「初めて言われた。長生きして、何か楽しいことあるかな？」
「…分かんないけど、」
でも、良かったらさ。
「俺と長くいれるよ。楽しいと思うよ」
人によっては、これ自体がプロポーズみたいに聞こえるだろう。
俺とAは…今のところ、恋人ですらない。
そうだな…実験者と、被験体だ。
そんな、特殊すぎる関係。
「長く…いてくれる？ほんとに？」
「…まぁ、A次第だけど」
「そっかぁ…」
Aはタバコの火を消しながら
「…人は、すぐ死ぬのにね」
と呟いた。
それに対して、俺は何も返せない。だって、本当のことだから。
「わかった。やめてみよっかな。でも、そんな簡単にやめられるかなぁ」
「さぁ…うちのじいちゃんはさ、禁煙する時、タバコ吸いたくなったらキャンディ舐めてたって言ってた」
「へぇ、キャンディねぇ」
「買いに行こうよ。近頃はキャンディ専門店とかあるらしいし」
「へぇ、なんでも専門店があるもんねぇ」
「うわぁ、可愛い！」
言った通り、キャンディ専門店を探してやってきたところ、Aは思ったよりもテンションが上がったようだ。
「こんなに種類あるの？キャンディって…」
「そうだね。これなら楽しんで禁煙できるんじゃね？」
「確かに…わぁ、やる気湧いてきたかも！」
さっきまで憂いた表情でタバコ吸ってたのに、キャンディではしゃぐなんて…ほんと、この子はさ。
「どれにしよっかな〜」
「全部一種類ずつ買えば？気に入ったやつ、また買いに来よう」
「うん、そうしょっかな」
本当は、俺がキャンディの立場でいたい。
タバコを吸うことで埋められるそのさみしさを、俺が。
それからも、いろいろショッピングしたり、カフェで一休みしたりして、あっという間に夕方になった。
好きな人といると、やっぱりね。
「ねぇ、寄り道していい？」
帰り道。Aがそう言ってきた。
「あの丘、ずっと気になってたんだよね」
高級住宅街UN Villageからでも見える、小高い丘を指差した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 88人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「K-POP」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
