21.一つ屋根の下 ページ22
＜ベッキョン＞
「ほら、A。着いたよ」
「んぅ〜」
なんとかAをタクシーから引き摺り下ろし、よいしょっ、と抱え上げる。お姫様抱っこってやつ。
ほんと、Aはお姫様って感じ。
自由で、何考えてるかよく分かんなくて、俺を振り回す。
俺、好きなんだよ？Aのこと。
「んぅ…おろしてぇ…」
「もうちょっとでベッドだから。えっと…Aの部屋は…」
使ってない部屋が数個あるほど広い家。記憶を頼りに入ったことのないAの部屋を開ける。
俺のと同じようなふかふかのベッド、女の子らしいぬいぐるみやドレッサー。
こんな感じ、なのか、Aの部屋…
途端に、変な気持ちになる。
全身が、Aに包まれてる。そんな感覚。
「べきょ、べっどー！」
「あー、はいはい、今降ろすからね〜」
ふわり、とベッドにAを下ろす。
「んふふ、ふかふか〜」
下ろした態勢のまま、俺は固まる。まるで、Aを押し倒しているような…
男女、一つ屋根の下。何も起きないはずが…
いや！俺は！
Aのことが好きだ。ちゃんと、ちゃんとした段階を踏んで…
『あの子は、恋愛、したことないんですよ』
そう、Aは恋愛したことがない。増してや、そういうこと、なんて。
俺は理性を保ちつつ、ゆっくりと離れようとした、が。
「あー！べっきょ！たいへん！」
「え、な、なに！？」
ぎゅっ、と俺の腕を掴むA。
「ねるまえの、けんこうしんだん！してない！」
『あー…薬は、毎日朝食後に。健康診断は毎晩寝る前に行いましょう』
毎晩、俺の健康をチェックするA。試験薬の副作用が出てないか確認のためだと。
毎晩、心音を聴診器で聞いたり、血圧測ったり。その度に、ドキドキしてたんだけど。
「今日は…いいんじゃない？もう寝なよ」
「だめ！じっけんなの！」
そう言うとAは、俺の胸に手を当てる。
「んー…ふく、じゃま…」
「あ、あの…A、聴診器持ってくるから…どこにある？」
そう言って、俺が上半身を起こそうとすると。
「いいからぁ！」
Aはそう言って、俺と一緒に上半身を起こす。
そして。
「んー…」
俺の胸に耳を当てて、聞いている。俺の、どうしようもなく早くなった、心臓の音を。
ドクドクドクドク…
「あれぇ…はやいねぇ…」
…そりゃ、そうだろ。
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作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
