20.一杯目の魔法 ページ21
＜ベッキョン＞
抱き止めた時、ふわっとAの甘い香水の匂いが漂って、頭がくらくらした。
「大丈夫？」
そう聞いたけど、大丈夫じゃないのは俺の方。
いい匂いするし柔らかいし…離したくない。
「あ…ありがと」
そう言って俺から離れるA。あ…離れちゃうんだ…。
「もう…おっちょこちょいなんだから」
呆れたように俺が言うと、
「えへへ…ごめんね、待たせた上に。行こ！お店予約してあるから」
そう笑って、歩き出すA。
「うん…」
俺も歩き出さなきゃ、どんどん離れていくよな。
…せめて、手だけでも。
「人多かった？」
「…あぁ、うん」
手、握りたい。そのことで、頭がいっぱい。
ただ手を繋ぐだけでこんなに迷ってるなんて…俺は童 貞か？
「どうしたの、ベッキョン。なんかあった？」
「え？なんかって…」
意を決して、そして、なんでもないように、Aの手を握る。
「…またこけそうになったら危ないから」
そんな言い訳をしながら。
ぽかん、とするAの手を引いて、俺は歩き出した。
「ぷはーっ！やっぱビール最高！」
「今かなりおじさんだよ、A」
さっきまで俺が握っていた手は、今はキンキンに冷えたビールのジョッキを握っている。
冷えたなら、また握ってあっためないとね。
そんな口実がないと、俺はAの手を握れない。
俺…こんなにビビリだったっけ。
「ベッキョンはー？次何飲む？」
「俺はもう烏龍茶にするよ」
「ほんとお酒弱いよね！私はー…んー、やっぱ梅酒のロックが一番美味しいんだよねー」
「さっきビール最高って言ってたくせに」
「ビールには一杯目の魔法があるからね」
「魔法って…化学者なのに、魔法信じんの？」
「んー、自分にとって都合の良いものを信じる、それが本当の効率主義。すいませーん！」
大きな声で店員さんを呼ぶA。今日はなんだか上機嫌。
だからか、お酒がいつもよりどんどん進む。
そして。
「ん〜…べっきょ、あるけない〜」
「もー、今タクシー呼んだから。なんでそんな飲んだの！」
見事酔い潰れたA。ここまでなのは初めてかも。
無事タクシーに乗り込み、2人後部座席に並ぶ。
こくん、こくん、と前後に頭を揺らしながら船を漕ぐA。前の運転手さんの座席に頭をぶつけそうで怖い。
まったくもう…。
Aを引き寄せて、自分にもたれさせる。酔ってるんだから、こんくらいしてもいいよな。
Aは心なしか微笑んだ気がした。
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作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
