16.私を愛して ページ17
.
いつものように、夕方、ベランダでタバコを吸っていた。
タバコを吸い始めた理由は、何でもない。
ただ、周りが吸ってて、自分も吸ってみたかったから。
実際吸ってみると、気持ちがよくて。
頭がほわほわして、良い感じになる。
寂しいとか、思わなくて済む。
ベッキョンは、週4でバイトをしている。CDショップとか言ってた。
たまにライブハウスに出演したり、新曲の打ち合わせ、とか言って事務所に行ったりしてるっぽい。
なんやかんや忙しそう。
対してわたしは、たまに研究がしたくなって実家の地下の実験室に行ったり、自分の作った薬がちゃんと効いてるかのチェックをしに行ったりする。
夜は、ほぼ毎日ベッキョンと2人でご飯を食べる。
でも…1人の時は、寂しい。
ぼーっと、ベランダでタバコを吸う。
今日は風が西から東に吹いている。ここは角部屋で東には部屋が無いし、10階だからタバコの煙を気にする必要もない。
「ふーっ…」
ベッキョンは、私を愛しているだろうか。
まだ、あまり感じない。惚れ薬の効き目は…どうだろう。
実は、今のところ…少しだけ、ベッキョンを選んだことを、後悔している。
ベッキョンは、おしゃべりが好きな、うるさい人だ。
だいぶ、ベッキョンといるだけで、1人じゃないというだけで、寂しさは減った。
けれど、その分、1人になると、余計寂しさを感じるようになった。
そんなことを考えていると。
「…A、ただいま」
「あぁ…ベッキョン、おかえり」
ベッキョンが、帰ってきた。
ただいま、というベッキョンの声が私の中に入ってきて、少し、あったかい。
それにしても、私がタバコを吸っている時に話しかけてくるのは珍しい。
歌手だから、受動喫煙を嫌っているのだと思っていた。
「どうしたの？ベッキョンも一服する？」
「ううん。俺、歌手だし」
予想通りの回答をすると、ベッキョンは私の隣に並んでベランダの柵にもたれる。
「どうしたの？」
「いや…言いたいことがあってさ」
ベッキョンはそう言って、一度俯いて、また顔を上げた。
「…あの、さ。俺、Aのこと、好きになった、みたいだわ」
好き…好き、か…。
「…そう」
私は、短くそう返す。
愛しているとは、違うのだろうか。
でも、惚れ薬の効き目は、どうやらあったらしい。
それは、少し、嬉しい。
さぁ、じゃあ、好きになったのなら、私を愛して、ベッキョン。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 88人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：LUKE | 作成日時：2022年2月6日 2時
