5.知らない顔 ページ6
＜ベッキョン＞
段々と2人…1人と1匹に近づいていく。
そして段々と、声も聴こえてくる。
女の人は、犬を膝に乗せて撫でている。
「よしよし〜疲れたねぇ、ビビちゃ〜ん」
そんな甘々な口調で、女の人はビビ、というらしいワンちゃんを撫でる…ん。
この声…どこかで、聞いたことが…？
…いや、気のせいだ。
彼女はこんな口調をするような人じゃないし。
「んふふっ、ちょっと休憩しようね〜」
ペロペロと犬に舐められ、デレッと笑う、フードから覗くその顔…
あれ、おかしいな。
「わんっ！」
モンリョンがまたビビに吠えると、女の人はこっちに気づいて顔を向け…
あ、という顔を、する。
「…ビョン、ベッキョン…」
「…A…」
今まで、会社の皆の知らない顔を俺は知っている、と優越感に浸っていたけど。
彼女とそういう関係になってから、1年になるというのに…
まだまだ、俺の知らない彼女の顔が、あったらしい。
「ご、ごめんっ！！行くぞ、モンリョンイ！！！」
なんだか、見てはいけないAを見てしまった…そんな、気がして。
慌ててモンリョンを連れて、その場を去る。
…なんだ、あの声、あの笑顔。
思い出しただけで、なんか、胸がきゅっとする…
可愛い、なんて。
そりゃ…えっちの時はさ、思ったことあるよ？
でもそれは、なんというか…可愛いって思わなきゃ、気持ち的に盛り上がんないじゃん？とか。
…今思うと、言い訳がましくも感じるけど。
でも、それ以外の…可愛い、なんて思わなくていい場面で、可愛い、と思ってしまうなんて。
「ベッキョン、いい加減あなたも25なんだからさぁ…良い人の1人や2人、連れてきてくれてもいいじゃない？結婚するとかしないとか一旦置いといてもいいから、とにかく安心させて欲しいのよ〜…」
家に帰って母親が作ってくれた晩ご飯を食べつつそんなことを言われつつ…
でも、味なんてしないし、まったく言葉も頭に入ってこない。
あの、鈴が鳴るような可愛らしい声と、
ふわっとした柔らかい笑顔が。
頭にこびりついて、離れない…
普段全く笑顔を見せない彼女とのギャップに、実にあっけなく、やられてしまったようだった。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年11月6日 6時
