29.素敵な元彼 ページ30
＜ベッキョン＞
「…そう、だったん、ですか…」
なるほど。
社内恋愛をよく思わない人は、そういう、公私混同を疑って…。
しかし、大事な人のキャリアに傷つけたくないから別れるって…どんだけ良い人なんだよ、ミンソクさん…。
「もしかして、ベッキョンも…職場内恋愛してる、とか…？」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど…」
俺なんて、公私混同しまくりだから…すぐアウトになりそう。
「えっと…まだ、Aさんのことは、好き、ですか…？」
「え？…あー…まぁ…」
ミンソクさんは俺から目を逸らして、言葉を濁して。
「…素敵な人なんだ、彼女は」
そう、ボソッと呟く。
「彼女のこと…ぶっきらぼうで冷たくて、仕事が完璧にできるロボットのように思ってるかもしれないけど…本当は、誰よりも繊細で、意外とおっちょこちょいで…でもそんな自分に自分で鞭打って、他人に傷つけられないように、してるんだ」
ミンソクさんは優しい目をして、机を見つめる。
「誤解、しないであげてね。ベッキョンは同僚だし…彼女のこと、避けたりせずに…仲良く、してあげて」
切なそうに微笑むミンソクさん…今一度、胸がきゅつとなる。
…こんな良い人に、愛されていた…いや、今も、愛されてる、なんて。
「ミンソクさん…Aと、ヨリを戻す気はあったり…？」
「…ううん、無いよ。彼女の方は、俺のキャリアを傷つけたって罪悪感抱いてるみたいだし…ヨリを戻したところで、そういう気持ちがすぐに消えるような子じゃないんだ。それよりも、そんな罪悪感を抱かなくていい、他の男の人と、幸せになってほしいんだよ」
ミンソクさんはそう言って立ち上がる。
「…あぁ、つい話しすぎたな…」
ミンソクさんは会議の資料を手に取る。
「でも…ちょっと誰に話せてすっきりしたよ。ありがとね、逆に話聞いてもらっちゃった」
「い、いえいえ、そんな！」
「じゃあね、ベッキョンくん。昼休憩逃さないようにね。これからも、プロジェクトメンバーとしてよろしくね！」
「は、はい、よろしくお願いします！」
俺は立ち上がって、勢いよくお辞儀をする。
「ははっ…じゃあね」
ヒラヒラと手を振って、ミンソクさんは会議室を後にした。
…あんな、素敵な人の後じゃあ…
『そんな罪悪感を抱かなくていい、他の男の人と、幸せになってほしいんだよ』
俺なんて、霞んじゃいそう…。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年11月6日 6時
