リナリアに苦悶する 7 (ページ7)

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306.久しぶりの失恋ページ7

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『アセクシャルの意味、だけどさ』

『は、はい』

『人に対して、恋愛感情も性的欲求も抱けない人のことなんだ』

そう言われてからの記憶が、曖昧だ。

すごく、泣いた気がする。

現に、今も泣いている。

…心当たりは、たくさんあった。

正直、納得がいった。

恋愛相談は興味が無いからと断るし、一緒に寝てもお風呂に入っても何もしてこないし、こちらの恋愛感情に気付く素振りも全く無い。

恋愛ができない人なんだ、と思うと、セフンさんに対する全部の疑問が解決した。

気付けば、家の玄関に立っていた。

背中をドアにもたれて、ずるるっ…とそのまましゃがみ込む。

そのまま、ぼーっと床を見つめていた。

すると。

「おかえり…どうしたの」

上から降ってきた声。

今…あまり聞きたくない人のもの。

「なにこれ…あ、言ってたお土産？」

ベッキョニオッパがクレーンゲームで取ってくれたぬいぐるみの入った袋が、取り上げられる。

「ん…ぬいぐるみ？ビビみたいで可愛い」

袋からぬいぐるみを取り出してもふもふを抱き締めるセフンさんを、無の感情でぼんやりと見る。

「…どうしたの」

動こうとしない私に痺れを切らしたのか、セフンさんはしゃがんで目線を合わせてきた。

なんとなくその目線を逸らす。

セフンさんは、恋愛が、できない。

今まで、そんな大事なことを黙っていたなんて。

「ベッキョニヒョンと、なんかあった？」

困ったような声色でそう言って、セフンさんの手が伸びてくる。

頭に差し掛かったその手を、私は、力の無い手で払った。

払われたセフンさんの手は、そのまま宙で止まる。

「A…」

戸惑うように私の名を呼ぶセフンさん。

私は、よろよろと立ち上がった。

そして、寝室へと歩き出す。

セフンさんは何も言わず、何もしてこなかった。

ぼふっ、とベッドに倒れこむ。

…久しぶりの、失恋だ。

そっか…そういうパターンもあるんだ。

私がいくら頑張っても、無駄っていうパターン。

そう思うと…今まで、セフンさんに女として見られようと頑張ってきた自分が、滑稽に思える。

セフンさんは…私の気持ちを、分かっていたのだろうか。

もしかしたら、分かっていて敢えて、気付かないふりをしていたのかもしれない…

言ってくれた方が、マシだった。

こんなに好きになる前に…苦しくなる前に。

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