リナリアに苦悶する 7 (ページ37)

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336.この恋に気づいてページ37

＜セフン＞

「恋愛感情が、芽生えた…」

「はい。好きだなぁ、とは思ってたんですけど、この気持ちが恋愛感情だよって言われて…びっくりしました。恋愛感情なんて、僕が持てるわけないと思ってましたから」

ふんわりと笑うイーシンさんは、本当にその恋人さんのことを愛していたんだろうな、と思う。

「だから彼女を失って…まだ、心の整理がついていないんですけどね…あ、着いた」

そうこう話しているうちに、目的地に着いたようだ。

花が一面に咲き乱れる、花畑。

「うわぁ…ここだ…変わってない」

車から降りて歩き出したイーシンさんに、俺は後ろからついていく。

ふと前を歩いていたイーシンさんが、花の前でしゃがみ込んだ。

「この花…」

俺もとりあえずその横にしゃがみ込んで、イーシンさんの見る花を見てみる。

「なんですか、これ？」

「これは、姫金魚草…別名、リナリアです」

「リナリア…」

「はい。花言葉が『この恋に気づいて』だそうです…生前彼女が、アセクシャルな僕に対していつも思っていた、と言ってたんです」

「イーシンさんに、自分の恋心を気づいて欲しかったのか…」

まるで、Aから俺への…

「違いますよ。逆です」

「え？」

「あなたが私へ抱いてるのは、立派な恋愛感情だよ、気づいて、って意味だったみたいです」

イーシンさんはそう言って、ふにゃっと俺に笑いかける。

「セフンさんには、いますか？そう言ってくれそうな人」

『セフン…その気持ちが、きっと、』

もしかして、あの時のベッキョニヒョン…。

「僕は、もう少し、彼女への気持ちを早く気づけばよかったって、後悔してるんです」

悲しそうな顔をしながらそう言うイーシンさん。

「そうしたら、もっと長い時間いられたのにって…僕はアセクシャルだから恋愛感情を持つわけがないって、そう思っちゃってたんですよね」

「…違うんですか？」

「んー…少なくとも、僕の場合は。他の女の人には恋愛感情なんて一切持てなかったんですけど…彼女に対しては、たくさん一緒に過ごしたからこそ、扉が開かれたのかもしれませんね」

そう、イーシンさんはニコッと笑って立ち上がった。

「次のところ、行きましょうか」

その頬には、一筋の涙の跡があった。

それからも、イーシンさんと彼女さんの思い出の場所を、一緒に回っていった。

その度に…イーシンさんに俺を、彼女さんに…Aを、重ねてしまっていた。

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