リナリアに苦悶する 7 (ページ15)

今日:23 hit、昨日:2 hit、合計:14,322 hit

314.全部知りたかったページ15

.

私は、セフンさんの誕生日すら知らなかった。

何も、彼のことは、知らない。そう思えてならない。

知ることを怠った…それが、私の罪なのかもしれない…

ドンガラガッシャン！！！

ぼーっと思考を巡らせていると、キッチンから聞こえた大きなことに、驚いて体を震わせる。

何かが落ちるような音…もしや。

のそのそと起き上がって、よろめく体を壁に手を付き支えながらキッチンへ向かう。

すると案の定、上の棚から床に崩れ落ちた調理器具を前に、わたわたと慌てるセフンさんの姿。

…やっぱり、愛おしい。

セフンさんはこういう格好悪いところを私に隠そうとする。

…隠さないで。

私に、全部教えてほしかった。

セフンさんの、全部。

そんなことを、今更、思ったとしても…。

胸が、どうしようもなく締め付けられる。

「…やば、A…」

セフンさんは、キッチンの入り口に立つ私に気づいた。

「いや、違…ちょっと手が滑って！前作ったお粥、また作ろうとしてて…ちょっとベッド行って待ってて！片付けるから！」

そう言って床に落ちた泡立て器の泡立てる部分の方を危なっかしく持つセフンさん。

「んーっと…これは、ここ…で、お米…どうやって洗うんだっけ…」

本当に、私が来る前はどうやって生きてきたのか心配なほどの情けない姿だ。

「…私が、やりますから」

「え…いや、いいよ！俺がやる。Aは寝てて」

「何年待たせる気ですか」

私はセフンさんからお米の計量カップを奪って、炊飯器でご飯を炊く準備を始める。

「あはは、言うねぇ…」

そう言いながら、セフンさんは私が料理するのを、見守っていた。

「…できました」

「うわぁ、久しぶりのAのご飯！いただきます！」

並んだ料理を前に、無邪気に箸を持って食べ始めるセフンさんを、私はぼーっと見ていた。

セフンさんは、私がセフンさんが恋愛できないということを知った、ということを、知らないはず。じゃなきゃこんないつも通りなわけないもん。

私は…いつも通りに、できるはずがない。

「ご飯冷めるよー」

そう言われても、食欲が無い。

「…いらない、です」

「せっかく作ったのに。美味しいよ？」

もぐもぐと食べながら言うセフンさんは、変に詮索するつもりはないようだ。

でも、そういえば…

『起きたら、落ち着いて話をしよう』

そう、セフンさんは言っていた気がする。

.