リナリアに苦悶する 7 (ページ11)

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310.1人でも大丈夫ページ11

＜セフン＞

『俺、Aちゃんに、お前がアセクシャルだってこと、言った』

ベッキョニヒョンは、”言ってしまった”ではなく、”言った”という表現をした。

ということは、ヒョンは自分で言うと決意したってことだ。

俺は…ヒョンのことを、信頼している。

ベッキョニヒョンは、言った方が良いと考えたんだ。

なのに。

「本当に、Aちゃんはセフンを諦めるかな」

「…だって、恋愛できない人に恋したって、実ることはないんだよ？意味ないじゃん」

「セフンは、知らないだろうけど…そういうもんじゃないんだよ、恋愛感情って」

ベッキョニヒョンは、地面を見つめながらそう言う。

「これはセフンも知ってると思うけど…Aちゃんは、真っ直ぐな子でしょ」

「…うん」

「真っ直ぐに、セフンに恋をしてたAちゃんが、未練なくすぐにすっぱり諦められると思う？」

「…俺は恋が分かんないから、何とも」

「…そうだよな」

ベッキョニヒョンはそう言って空を仰ぐ。

「…ごめん、セフン」

「だからなんで謝るの。ベッキョニヒョンは事実を言っただけだって」

「そうだけど…違うんだ」

そう言うと、やっとベッキョニヒョンは俺の方を向いた。

「俺は…セフンのために言ったんでも、Aちゃんのために言ったんでもない」

そして、また目を逸らす。

「と、言うと？」

「…俺も、おんなじように思ってた。セフンが恋愛できない人間だと知ったら、俺の方に靡いてくれるんじゃないかって。それまで良い感じだったから、俺とAちゃん。だから…自分の利益のために言って…Aちゃんを、悲しませた」

「それは…」

「俺、自信なかったんだよ。セフンよりも、自分に惚れさせる自信。だから…禁じ手とも言えるやり方を使った。Aちゃんを酷く傷付けて、その弱ったところに漬け込もうとして」

「…」

「でもあんなに泣き喚くAちゃんを見て…俺は…」

「罪悪感？」

「…うん。言うべきじゃなかったなって」

「そんなこと…無いと思うよ」

俺は立ち上がった。

「俺も、これではっきり気持ちがつく。Aを幸せにするのはベッキョニヒョンだ」

結論は出た。

俺は…Aを、諦める。

大丈夫。Aと出会う前の、元の生活に戻るだけだ。

普通に生きれてたし、俺。

「セフン…違う…お前は…」

「いいよ。希望を見せないで。俺は…1人でも、大丈夫」

1人でも生きられるから、恋愛感情を与えられなかったんだ。

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