リナリアに苦悶する 6 (ページ30)

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279.1人でもページ30

＜セフン＞

「…今日は、ありがとう、俺に付き合ってくれて」

「ううん、いいよ。少しでも。役に立てたのなら…まぁ、失恋は、悲しいけどね」

俺とキムジョンインは、話していくうちに打ち解けていったようだった。

「本人には、直接言わせた方がいい？Aの性格的に、たぶんちゃんとお断りしたいと思うんだけど」

「…ううん…本人から言われると尚更傷つくし…Aさんも、たぶん心苦しいと思うから、大丈夫」

「分かった。本人にそう伝えとくよ」

俺はそう言って、目の前のグラスを飲み干した。

そろそろ帰って、Aの寝顔でも見るとするか。

「俺はもう帰るけど、あんたはどうする？」

「僕はもうすこし、ここで失恋の痛みを癒すことにするよ」

「そっか。わかった。ミンソギヒョン、お会計」

「はーい」

俺は立ち上がり、ジョンインに軽く別れを告げてからレジに向かう。

「したかった話は、できたの？」

ミンソギヒョンが小銭を数えながら言う。

「うん」

「そっか…どうだった？」

「…俺は、多分失恋してない」

「そっか…でも、失恋してないと思ってるだけで、Aちゃんに対する感情が恋愛じゃないって否定はできないんじゃないかな」

「…もういいよ。早くお釣りちょうだい」

フォローしてくれようとするミンソギヒョンには悪いけど、１つの希望が絶たれて、俺は今疲弊してる。

「あのさ」

ミンソギヒョンが俺にお釣りを渡しながら言う。

「俺の知り合いに、ジェンダーについて詳しい人がいるんだよ。セフン、自分のアセクシャルについて、聞いてみる気はない？」

「…考えとく」

今はそれよりも、帰ってAの寝顔に癒されたかった。

「うん、ちゃんと考えておいてね。きっと助けになってくれるだろうから」

「はいはい。ありがとー」

俺は適当に返して、店を後にした。

「ただいまー…」

家に帰ると、きちんと玄関は電気が付いたままで。

Aの優しさが心に染みる。

寝室に入ると、いつものようにAはすやすやと眠っている。

でも、いつもは寝る時は俺と一緒なのに、1人でも寝れたんだな。

…こうやって、俺がいなくても、Aは…

なんて考えがよぎりつつ、俺はAをぎゅっと抱きしめながら眠りについた。

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