リナリアに苦悶する 6 (ページ20)

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269.分かっていたページ20

＜ベッキョン＞

傷ついた、なんてさ。

『このまま帰る？それとも、俺とお出かけする？』

そう聞いた時、Aちゃんの体は右を向いていた…俺と、お出かけする方に。

…でも。

『セフンのいる家に帰るのと、俺と一緒に街に行くの、どっちがいい？』

俺がそう聞いた瞬間に、Aちゃんの体は真っ直ぐになって…

徐々に、左を向いた。まるで、無意識に何かに操られるように。

自業自得なんだ。

まだ、この右と左の間には、大きな壁があって。

それを崩さないことは分かっている。

俺の方に傾いていたのに、わざわざ試して、左に…セフンの方に傾かせてしまった。

俺は、俺を高く買いすぎだ。

…分かっていたのにな。

でも今日は十分押せたと思うから、このくらいにして引いておこう。

きっと、Aちゃんのセフンのへの気持ちを一気に崩すなんて無理だ。

そんなことしようとしたら、逆に俺が嫌われてしまう。

それにしても…なんでいるんだよ、セフン。

まぁ…大方Aちゃんの帰りが遅いのを気にしてた、ってところだろうけど…。

…ここは、悔しいから、さ。

「Aちゃん、俺、ちょっと傷ついたよ」

そう言って俺は、家の前で足を止めた。

上からは、セフンが見下ろしている、真顔で。

「え…私…何か…」

「でもいいよ、これで許してあげる」

繋いでいた手を、恋人繋ぎにして、Aちゃんの頬に手を当てて固定して、唇の位置を確認して、ゆっくり顔を近づけて。

柔らかい2度目の感触を、味わった。

顔を離してAちゃんを見ると、見事に固まっていた。

チラリと上を見ると、セフンは乗せていた腕から顔を離し、驚いたような顔をしていて。

俺と目が合うと、なんとも言えない表情をした。

『…じゃあ俺、攻めるからな』

『…お好きにどうぞ』

…そう言ったのは、お前じゃないか。

たぶん、あそこからは俺とAちゃんの会話は聞こえていない。

だからきっと、セフンからしたら、俺とAちゃんが順調に行っているように見えることだろう。

「じゃあね、また連絡するよ」

俺はそう言ってできるだけヘラッと笑って、Aちゃんに背を向けた。

最後にチラリとセフンを見ると、俺の方を見ていたから、セフンの方にも、ヘラリと笑ってみせた。

俺が有利だと、俺自身に思い込ませるように。

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