桔梗を探して 7 (ページ12)

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303.クチャラーの回想ページ12

＜ベッキョン＞

俺が、初めてここに来た日。

『…おい、新人』

『ギョンス！新人じゃなくてベッキョン！』

『なにーギョンスさん』

『クチャクチャ音を立てて食べるな』

『癖なんだもん！』

『いいよ、ベッキョン。好きに食べなさい』

『わー！ミンソクさん優しー！さすが大人の余裕！…そ、そんなに睨むなよギョンス…怖っ…』

晩ご飯で、そんなやりとりをして。

食後。

トントン

『はーい…あれ、ギョンスさんじゃん、どーしたの？』

『ベッキョン…その…すまな、かった…』

『え？』

『クチャクチャ音を立てるな、とか言って…』

『…何、バカ真面目に謝りに来たの』

『ミンソギヒョンに…言われたんだ…ベッキョンは…厳しく教育されてきたから…その…ここでは、自由に食べさせてやってほしいって…』

『…はーっ！なに余計なこと言ってんの、あのじーさん…気にしなくていーよ！そんな配慮される方が腹立つ！』

『そう、なのか…？』

『…あんた気にしすぎだよ。普通に注意すればいいだろ。俺に嫌われたところで何も無いし』

『あ…いや…不快にさせたかなって…』

『不快にさせたのは俺の方だろ…はぁ。あんた、優しすぎるんじゃないの？』

『優し…すぎ…』

ギョンスみたいな人種とは初めて会ったから、どう接すればいいのか分からなかったし、はじめはバカにしてた。

ここは、俺の知らないことだらけだった。

『ベッキョナ！』

『ん、えっと…A、だっけ？』

『うん！知ってるんでしょ？外の世界のこと！教えて！』

『は…？』

『私、ここの家以外、知らなくて…』

『そ、そうなんだ…俺の見てきた外の世界は…あんたほど、綺麗じゃないよ』

『私…綺麗…？』

『純粋そうな顔してる。処女ってほんと？』

『しょじょ…？』

『あー、知らないんだ…ミンソクさんにあんたのこと抱いてって言われたんだけど』

『だいて…いいよ！ぎゅーしよ！』

Aは、俺に抱きついてきた。

…はじめて、誰かに正面から、抱き締められた。

こんな、純粋な気持ちで。

Aの体は、あったかかった。

『…そうじゃ、ねーよ』

最初、腹が立った。

噛み付くように、その唇を奪ってやった。

苦しい思いもせずに、この家でぬくぬくと育てられたんだなって。

でも。

今は、彼女がどれだけの苦しみを背負い、抱え、隠していたのか、分かる。

「幸せに、なれよ…」

俺は、目を閉じた。

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