254.黙っておこう ページ10
＜レイ＞
ミンソクの部屋へ歩きながら、皿に乗ったレバーを見つめる。
「…Aは、いつから気付いてたの」
「さぁね」
はぁ、と俺はため息をつく。
「手術したのも俺知らなかったけど」
「俺も知らなかったよ」
「スホヒョンが知ったのはいつ」
「つい1年ほど前に、Aに相談された」
「へぇ…」
大きな扉の前に着く。
トントン
ノックをしても返事がない。
スホと顔を見合わせる。
俺は扉をゆっくりと開けた。
「ミンソギヒョン」
ミンソクは、長いソファで寝ていた。
「ん…レイか…？」
「調子はどう？」
「あぁ…悪くないよ」
片方の口角を上げて笑うミンソクの顔は真っ白で、少し、やつれているようにも見えた。
意識して見ると…確かに。
「これ、Aが持って行ってあげて、だと」
スホは皿を机にドン、と置く。
「あぁ…Aが…」
穏やかに優しく笑う、ミンソク。
「レバー多めだと」
スホは素っ気なく言う。
「はは…そうか」
ミンソクが起き上がる気配はない。
「来る気、ある？」
「若い者たちだけで、楽しむといいよ」
「…そう。スホヒョン、行こう」
「あぁ」
俺とスホヒョンは、さっさと部屋を出た。
…あんな顔、見たくない。
「このことを知ってるのは、俺と、スホヒョンと、Aだけ？」
「あぁ…でもセフンの様子が少し変わっていた。Aが話したのかもしれない」
「そっか…これから、どうしようね」
「どうするも何も、ここから出るんだろ？」
「妊娠した今、Aに脱出願望は残ってるのかな」
俺が立ち止まると、スホヒョンも立ち止まった。
「Aの、チャニョルへの気持ちは、本当だったんでしょ？」
スホヒョンを見ると、少し顔を歪めて俯いた。
「…せっかく、希望を見たのにな」
「ここ1週間は、ちゃんとピル飲んでたの？」
「…そのようだよ」
チャニョルと、出会ってから…Aは変わったのに。
自分のしたいことを、せっかく見つけたのに…
「タイミング、最悪だね」
「やめろ、お腹の子どもに罪は無いんだ。セフンにも」
「…言い方が悪かったよ」
俺は壁を背中に付けて、上を向く。
「みんなには、黙っておこう」
「…いいのか」
「あの人はずっと隠してきたんだ」
「…あぁ。そうだな」
スホヒョンは歩き出す。
俺も壁から背中を離し、後を追った。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年8月8日 21時
