292.変わらずにあるもの ページ49
＜チャニョル＞
俺は、すべて、話した。
父さんが隠してきた、ということも。
母さんはキムミンソクという人と結婚していた。
その間に、ジュンミョンという子どもをもうけた。
でもジュンミョンが1歳の時に、母さんは交通事故で記憶喪失になった。
そしてミンソクは森の中の家で、7人の住人たちと暮らしている。
その家に俺は迷い込んだ。
その住人のうちの2人が、ジョンデとジョンイン。
そして住人の中の1人は、ジュンミョンである。
ミンソクは母さんのことが忘れられずにいる。
そのせいで…女の子を拐ってきて、Aという名前をつけて。
そして…
「もうすぐ、死ぬんだ、ミンソクさんは」
「え…？」
母さんは、何がなんだか分からない、という表情をしている。
父さんは、はぁ、とため息をついた。
「婚姻届を役所に出そうとしたらな…母さんはキムミンソクという人と籍が入っているからダメだと言われて…それで初めて、知ったんだ。
俺はミンソクさんと会って、話して…Aを、幸せにしてください、と。自分のことは、忘れたままで結構ですから、と。そっちの方が…Aは、幸せですから、って…」
父さんは俯く。
旦那と息子のことを忘れ…自分だけ幸せになろうとしている、なんて知ったら、母さんは自分を責めるだろう。
それを…見越してたのかな。
母さんを、悲しませたくなくて…ミンソクさんは…。
「…会いたい…」
母さんは、絞り出すように言った。
「その、ミンソクさんと、ジュンミョンくんに、会いたい…私が忘れていても…その人たちを愛したという過去は…変わらずにずっと、あるもの…」
「母さん…」
「愛してくれた人を忘れたままなんて…できない…」
父さんは泣いている母さんの肩を抱いた。
「会ってきなよ」
「あなた…。うん、そうするわ」
チラッと見ると、ジョンデとジョンインも、涙ぐんでいる。
「さ、行くわよ！」
「切り替え早っ！？」
母さんはすぐに立ち上がる。
「時間、無いんでしょ？はやく、行ってあげないと」
母さんは真面目な顔で言った。
「…うん。そうだね」
俺が立ち上がると、ジョンインとジョンデも立ち上がる。
「…どんな反応、するかな」
ジョンインがボソッと呟く。
「ミンソギヒョンと、スホヒョン…」
「スホ…？」
「あぁ、ジュンミョンさんの別名だよ…母さんは、ジュンミョンって、呼んであげて」
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年8月8日 21時
