289.作らせたフィルター ページ46
＜スホ＞
「…へぇ」
「俺は、あんたが死んだら清清する。散々苦しめられてきたんだ」
「そうか…はは、良いことだな」
「キムジュンミョンって、知ってるか」
「…さぁな、知らないよ」
「…そうか。じゃあ俺も知らない」
俺は、あの写真を机の上に置いて、立ち上がる。
「あんたは、父親失格だもんな」
そう言って、部屋を出た。
俺とAが病気に気づいたのは…と言っても、Aはあの人の異変にもっと前から気付いていたのかもしれないが…1年前だ。
でも、大腸がんは、数年かけて進行する。
もっと前に、本人は分かっていたんだろう。
直腸癌の手術は、勃 起障害を引き起こす…子作りが、できない体になる。
ミンソクがそうなったのが、3年前。
ちょうど…あの人が俺に、Aの子どもが欲しいと、打ち明けた頃だ。
子作りが、できない体…
父親になる資格が、無くなって…
父親、失格。
「はぁ…」
俺は食堂に戻る。
すると、セフンとベッキョンは帰ってきていた。
「セフン、ベッキョン…」
「スホヒョン…」
ベッキョンが、真面目な顔をしている。
「どうした」
「橋の工事が…始まってた」
「え…？」
「工事の人に、聞いたんだ。1ヶ月で、完成するって…」
どういう、ことだ…？
「俺が、前直接ミンソギヒョンに聞いた時…業者に頼んだよ、って、はっきり言われたんだ…どうやら、本当だったらしい…」
ギョンスが俯きながら言う。
「先の…チャニョルが来た日、大雨だっただろ？それで、ここに来るまでの道が倒木で封鎖されて…工事が遅れていただけだったらしい」
セフンが顔を歪めながら言う。
「思い込みや先入観のフィルター…恐ろしいね。俺たちは、ミンソギヒョンが橋を直さずにここに閉じ込めるつもりだと、信じて疑わなかった」
レイが机の上で手を組みながら言う。
「しょうがないでしょ。そのフィルターを作ったのはミンソク自身だ」
ベッキョンはポケットに手を突っ込む。
「…作らせたのよ、私たちに」
座っているAは、俯く。
「自分が死ぬことで、悲しませたくなかったの」
Aは、少しだけ口角を上げた。
「…セフナ、部屋帰ろう。気分悪くなってきちゃった」
「…うん。分かった」
セフンはAを支えて立ち上がり、食堂を出る。
俺は…動けなかった。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年8月8日 21時
