248.実の息子の反抗期 ページ4
＜レイ＞
ミンソクの部屋を出て、スホの部屋に向かう。
ガチャ、とドアを開けて…
迷うことなく、寝ているスホの腕に、ミンソクから貰った薬を注射する。
5分ほどして。
「ん…」
スホが、目を覚ます。
「おはよ、スホヒョン」
「レイ…」
「もう夕方だけどね」
俺はベッドの横にあった本を手に取ると、椅子に座ってそれをパラパラとめくった。
「Aが、妊娠したよ」
「…レイ、俺は寝起きなんだ…冗談は、キツいよ」
「知ってたんでしょ。なんで、言わなかったの」
俺は本をベッドの上に投げる。
「…レイ」
「あんたはAの相談役だろ。知ってたんだろ。知ってたからこんな本読んでたんだろ」
投げた拍子に、カバーがめくれる。
そこからは、『出産の歴史』という文字が顔を覗かせている。
「…せっかく、Aが…みんなが、希望を持ったんだ。壊すわけにはいかない」
「いつから？」
「何がだ」
「いつから、Aはピルを飲んでなかった」
「…お前は、いつも余裕そうに笑っていた。そんなお前が、俺は憎らしかった」
「昔話はいい。俺には今余裕がない」
『お前は…Aのことになると、優秀じゃなくなるな…』
あぁ、そうだよ。
俺は立ち上がり、本棚を見る。
「几帳面だね、スホヒョンは。abc順に並べてるんだ」
“C”
「cancer…癌、だよね」
「レイ…」
分厚い医療書。
ペラペラとめくると、桔梗のしおりが挟んであるページ。
「colorectal cancer…困ったな、医療用語は守備範囲じゃない。どういう意味？」
「レイ…お前が知らなくて俺が知っていることなんてあるんだな」
「優越感抱いてる場合じゃないよ。どういう意味？」
スホはゆっくりと上半身を起こす。
「…大腸がんだ。初期症状はほぼない。進むと、貧血、下血、腹痛といった症状があらわれる」
「貧血…」
パタン、と本を閉じる。
「あの人は前に1度、手術をしてるよ。3年前にね」
「3年前…？」
「直腸癌の手術は…勃 起障害を引き起こす」
スホは俯き、手を組む。
「…それでも、手遅れだった。今や色んなところに転移してる。
あの人は…諦めたんだ。
それよりも残りの人生を、好きなように生きることを選んだ」
「スホヒョン…あんた…」
「それなのに生憎俺もAも、反抗期がやってきたらしい。
…1週間前ほど前からね」
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年8月8日 21時
