桔梗を探して 6 (ページ29)

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272.小さな背中ページ29

＜チャニョル＞

ベッキョンはそのまま、戸惑うセフンの肩を組んで、出て行った。

Aは、ドアの前で立って、ただ俯いている。

…何を、言えばいいんだろう。

俺は…何が、言いたい？

どう、したい。

「おいで、A」

俺は両手を広げる。

断られてもいい。

俺が、そうしたい。

「チャ、ニョル…」

Aが、少し顔を上げる。

「…いいの…？」

「なにが？」

「私…抱き締められて、いいの…？」

頬に、涙が伝っている。

…まだ、Aの中に、こびりついてるものがある。

「Aは、どうしたいの？」

そう聞くと、彼女は真っ直ぐに、俺に飛び込んできた。

俺はぎゅっと、Aを抱き締める。

「大丈夫」

そっと、背中をさする。

…この小さな背中は、何を背負っているのか。

「自分の本当の心に、もっと寄り添ってあげて…甘えて、いいんだよ、周りの人に」

『もう本心に鍵なんて、かけなくていい。もっと、本心に寄り添ってあげて。なんて、言ってるの？』

ギョンスにも、そう言ったな。

「Aは、優しすぎるんだ。だからね、少しくらい、わがまま言っても、大丈夫だよ」

『お前は明るくて優しくて思いやりの深い人間だ。多少わがままを言っても、周りも許してくれるだろう』

ジョンデのお父さんの、遺書。ジョンデも、そうだったんだ。

「否定したり、しない。むしろ喜んで聞くよ」

『…肯定されたのは、初めてだよ』

『あはは！チャニョル…お前はとことん俺を肯定してくれる』

これは、スホさんと。

「俺は…Aは、強い人だと、思う。いつも笑ってさ、普段は何も感じさせずに…振舞うんだ」

『全くそんなこと感じさせないように振る舞ってさ。最後には笑い飛ばして…強いな、ベッキョンは』

これはベッキョンと。

「そんなに心配しなくても、Aの居場所は、たくさんあるよ。俺のそば、だけじゃない」

『ここの外には居場所がないんだ。ここを出ても…外での生き方を、知らない…特に、人生のほとんどをここで過ごした俺なんかは』

これは、セフンとおんなじ。

「案外、希望はそこら中にあるんだ」

『Aにとって今必要だったのは、外への希望を持つことだったんだね…君には敵わないよ』

レイさんも、気づいてなかったこと。