260.とけてるよ ページ17
＜レイ＞
トントン
「はい」
掠れた声の返事が聞こえる。
ガチャ
「ミンソギヒョン。朝ごはんだよ」
ミンソクは、長いソファに相変わらず寝ていた。
「あぁ…朝ごはんか…」
机の上を見ると、昨日置いていったバーベキューの皿は、手付かずのまま。
「食べなかったの？」
「あぁ…」
「ダメじゃん。レバーは鉄分豊富だよ。貧血にも効く…その真っ白な顔も、少しはマシになるんじゃない？」
「はは…そうかもな…」
声は掠れていて、起き上がろうとしない。
俺はしゃがんでミンソクの顔を覗く。
「気が抜けた？」
「どういう意味だ、レイ」
ミンソクは微笑む。
「今までずっと隠してきたんだろ、自分が大腸癌でもうすぐ死ぬってこと。それが俺にバレて、気が抜けたの？だからこんな突然体調悪そうになったの？」
「はは…」
「それともAが妊娠したから安心して気が抜けた？」
「はは…」
「はぁ…」
何を言っても笑って誤魔化すミンソクに呆れ、俺は立ち上がった。
「朝ごはん、食べるの、食べないの」
「なぁ、レイ…」
ミンソクは天井を見上げる。
「なに」
「どちらが、先かな」
「え？」
「俺が死ぬのと、お前たちが地下道を見つけるの、どちらが、先かな…」
「ミンソク…」
「間に合わないだろうな…Aと、セフナの子どもの顔は、見れないだろうな…」
「おい、」
「最後の、駆け引きだ、レイ…」
「ミンソク…!!」
「一度きりの、人生だ。最期まで、楽しもうじゃないか」
机の上を見る。
グラスの中には、水がたっぷりと入っている。
元々、氷だっただろうに。
「とけてるよ…」
『いーち、にー、さーん、しー…』
『なにしてるの、A、と…スホヒョン』
『レイ！あのね、スホがね、一階と二階の廊下の長さが違うって言うの！』
『廊下の、長さ？』
『…あぁ。なんとなく、そう思って…』
『だから歩幅何個分なのか、スホと調べてるんだ！』
『へぇ…結果は？』
『何回やってもね、二階の方が廊下が長いの！』
『二階の廊下の方が、長い…？』
『不思議でしょー？スホよく気付いたね！』
『ま、まぁな…』
俺は、気付いていなかった。
その廊下の謎。
解けたよ、今になって。
もう、解けてるよ、ミンソギヒョン。
.
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年8月8日 21時
