桔梗を探して 6 (ページ14)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:34,898 hit

257.代わらない愛ページ14

＜ジョンデ＞

「…あー！やっぱ酔ってんのかも！」

ベッキョンは大きく伸びをする。

愚かな人間、か…。

「…愚かだ、なんて、誰が決めたの？」

「俺だよ」

「そう…ベッキョンは、自分に自信があるんだな！」

「…なんだよジョンデ、嫌味かよー」

「うん！あの時のお返し！」

『金が無い学が無いって…まさに俺のことだね！』

『嫌味だからな！』

「ハッ！相変わらず記憶力が良いことで！」

「お前もだろ！やっぱりベッキョンは記憶力が良いよ。一生Aを愛したこと、忘れなさそう」

「…忘れないっていうか、忘れられないだろ」

「ミンソギヒョンみたいに、ならないでよ」

「え？」

「よく言ってたから、あの人。俺とベッキョンは似てるって」

「あぁ…俺もよく言われたよ」

「ミンソギヒョンは…ずっと、Aさんを愛したことを忘れられずにいるんだね」

「…そうらしいな」

ベッキョンは部屋に入り…桔梗の柄のオルゴールを手に取った。

「変わらない愛は、無いよ。でも、代わらない愛は有る」

そのオルゴールは、ゼンマイが無いようだ。

「Aの代わりなんて、どこにもいない」

つうっ、と涙がベッキョンの頬を伝う。

「このオルゴールに、新しいゼンマイを取り付けたら、それは違うオルゴールになってしまうの？」

「…テセウスの船か」

テセウスの船。

同一性についての思考実験の一つ。

テセウスという人の船のパーツを1つずつ、徐々に置き換えていき、やがて全てが置き換わって完成した船は、テセウスさんの船と言えるのか、という問題。

違うパーツで構成され、前とは違う形になっているのなら言えないじゃないか、という人。

でもナイル川は、1時間前とは違う水が流れていて構成する要素は変わっているのにナイル川と言うじゃないか、という人。

正解なんかない。

「俺は…違うと思うよ。無くなったゼンマイの代わりなんてない。新しいゼンマイを取り付けたら…同じオルゴールとはいえないさ」

ベッキョンはオルゴールを見つめる。

「…どうして答えのない問いに対して、人は一生をかけて悩み続けるんだろうね」

ミンソギヒョン…。

「ジョンデ…さすが、金は無いが学は有るな！」

「ははっ…ようやく気づいたか！」

俺が笑うと、ベッキョンも笑ってオルゴールを机に置いた。

「俺も、Aを愛してるよ」

ベッキョンは、アホ面で寝ているチャニョルを見て、呟いた。

.