174.あっぱになれない ページ26
＜ジョンイン＞
『じょんいな、僕のあっぱになってよ！』
そう、何度言われたことか。
『ジョンイナ。テミナも、こう言ってるし…そろそろ、考えてもいいんじゃないかなって思ってるんだけど』
『え、もしかして、てみな、僕のきょうだいになるの！？』
『せふなときょうだい！？』
『わぁ…僕きょうだいいたことないから楽しみ！』
『セフナ、テミナ、気が早いわよ。…で、あなたの気持ちはどうなの、ジョンイナ』
…俺はあの時、なんて答えたっけ。
Aがいなかった時、言い寄ってくる女はテミンの母親1人じゃなかった。
けど、ほとんどはどうでもいい気休めでしかなくて…唯一、片親同士という親近感から、少しでも気持ちが入っていたのが、テミンの母親で。
このまま、Aが帰ってくることが無いのなら、再婚しても…。
なんて、思っていた。
「…ごめんな、テミナ」
「？なんであやまるの、じょんいな…」
ずっと、父親が欲しかったよな、テミンは。
でももう、俺はお前の父親になることなんてできない。
「…俺、」
そう、はっきり告げようとした時。
「もういいから。みんな遅れるわよ」
イーシン先生と話していたテミンの母親が、そう言った。
しゃがだままパッと顔を上げると、テミンの母親は冷たい目で俺を見下ろしていた。
「ほら、テミナ。もう時間でしょ」
「おんま…あ、たいへん！せふな、はやく行こ！」
「う、うん！行ってきます、おんま、あっぱ！」
テミンの母親が促すと、2人は手を繋いで保育園の中に入っていった。
俺はゆっくり立ち上がる。
周りには、なんとも言えない気まずい空気が流れる。
…この空気を破るのは、俺じゃなきゃいけない。
そう思って。
「…あの、」
「もういいから」
俺が話そうとすると、テミンの母親が遮る。
「戻ってきたんでしょ、奥さんが」
テミンの母親はそう言って、Aを見る。
「…うん。だから、」
「あなたのことを諦めろって言うんでしょ。分かってるから。いいわ」
あっさりと言うテミンの母親に驚く。
「…分かったから。じゃあね、ジョンイン」
そう言って去ろうとするテミンの母親の手を、咄嗟に掴む。
「…待って」
「あら、いいの？奥さんの前だけど？」
意地悪くフッと笑うテミンの母親。
…でも、俺は、知ってる。
「俺、本気だったから」
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年12月3日 2時
