アムネシアを枯らすな 3 (ページ26)

今日:17 hit、昨日:16 hit、合計:64,719 hit

125.憎らしいほどページ26

.

うぐっ…口の中に入れすぎた…。

ベッキョンとなるべく会話をしたくなくて…さっきは、泣き落とされそうになったから…パスタに、集中してたんだけど。

目の前から、視線を感じる…。

チラッと目だけ向けると、ベッキョンが…穏やかに、微笑んでいて。

…正直に言うと…少し、ドキッとした。

「た…食べなよ、ベッキョンも！」

「…ううん。見てたい」

少し低い声で、落ち着いたように言うベッキョン。

その顔は、やっぱり穏やかで、優しくて…私の、大好き、な…

「ごふっ…！！」

「A！？だ、大丈夫！？」

「だ、大丈夫大丈夫…」

…なんでまたそんなこと…ついつい、むせてしまった。

ここには、ベッキョンとの関係を断ち切るために来たのに…本人を目の前にすると、調子が、狂う。

私が知ってるベッキョンの酷い部分は…たった、1日や2日、見えただけで。

私の記憶の中の長い長いベッキョンとの幸せだった時間が…ひたすらに、邪魔をしてくる。

「懐かしー…なんかさ、あの温泉旅行思い出さない？」

「温泉旅行…」

1年くらい前に…私の記憶の中では、ベクと行った初めての旅行だったな…。

「ホテルのビュッフェでさぁ、A、欲張って色々取って！早く食べないと無くなっちゃう！とか言って、いっぱい口に入れて…俺が見つめてたら、目が合ってむせて…ははっ…楽しかったよね、あの旅行！」

…うん、楽しかった。

ベッキョンが取ってくれたのは、最上級のスイートルーム。

一部屋に一つ温泉があって…

「部屋に温泉があってさぁ、一緒に入って～、そのままイチャイチャして！」

「こ…こらっ…！」

「ははっ！思い出した？すごい解放的だったよね～…温泉、気持ちよかったなぁ…色んな意味で！」

「ば、ばか！！」

「あっはは！！顔真っ赤～いやぁ、思い出すあたり、Aもピョンテですな～」

「違っ…！！」

…なんか、懐かしいな、この感じ…。

心地いい、と思っている自分が…憎らしい。

憎らしいほど…心地いい…。

「…友達」

「ん？」

「ベクは…私の、友達」

「…うん、それでもいいよ。友達にさせてもらえるだけ…ありがたい」

「もう、付き合ってた頃の話は…しない。その条件…飲める…？」

「うん。会わせて、くれるんなら。どんな条件でも、飲むよ」

.