257.二の舞になるぞ ページ10
＜カイ＞
久しぶりに味わうようなAの唇…
俺よりも、Aの方が積極的で。
待ち侘びていたように、絶え間なく唇を重ね合う。
かく言う俺は…段々と、脳が溶かされていくような感覚に侵されていた。
酸欠？
…あ、呼吸器、付けないと…！！
『この人工呼吸器取ったらさ、Aって、死ぬのかな』
ペロッと、Aの舌が俺の唇を舐める…
「…っ、A、だめだ…！」
「え…？」
俺はAの肩を押して離れる。
「呼吸器…ちゃんと、付けないと…」
「…大丈夫。それより、ジョンイナ…」
Aがトロンとした目で俺を見る…やばい。
でも、ダメだ、これ以上は。
ガタッと、俺は立ち上がる。
「…いつ、退院できるか、聞いてくる。ちゃんと呼吸器、付けてて」
「やだ…行かないで…」
「すぐ、帰ってくるから…」
「ジョンイナ…」
「っ…」
俺は、Aの想ってるジョンインではない、と…
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「元気に、なったら…旅行、連れてってあげるから…安静に、してなよ」
「…約束…？」
「…うん。約束」
「…わかった」
Aは、大人しく横になり、人工呼吸器を付けた。
…やっぱり、Aはジョンインの言うことはちゃんと聞く。
この調子で…。
俺は病室を出て、ナースステーションに向かった。
「すみません、203号室の者なんですが…いつ頃、退院できそうですかね」
「あぁ…少々お待ちください…医師が向かいますので」
「お願いします」
俺は病室に戻らず、長い廊下にあるベンチに腰掛けた。
…言わないと。
ジョンインは、もう居ないのだ、と。
完全に消えたのかは分からないけど…もう、俺の体を支配させはしない。
俺自身で、Aを愛するんだ。
…いいか、俺自身で、Aを、愛するんだぞ。
周りを気にせずに、真っ直ぐに。
作ったりしちゃ、ダメだ。
強い自分を作った結果、散々苦しんだじゃないか。
ジョンインのふりをし続けるなんて、二の舞に、なるぞ。
「はーっ…！」
髪をくしゃくしゃと掻く。
自分の中の邪念を振り切るように立ち上がり、病室に戻った。
「ただいま、A」
「ジョンイナ…おかえり。今、お医者さんが来たの。明日また様子見て、大丈夫そうだったら退院していいって！」
Aの笑顔は…俺の心を、掻き乱す。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年9月17日 21時
