292.男として見て ページ45
＜ベッキョン＞
「久しぶりだね〜2人きりになれるの」
ソファに寝転んでAをぎゅーっと抱き締める。
「ベク…午後、ちゃんと大人しく仕事できたね。えらいえらい」
よしよし、と頭を撫でてくれるA。いつものように、子犬を撫でるように…
『大丈夫。あんなやつ、カイのライバルじゃないだろ』
ふと、その言葉を思い出して。
「…A、撫でるのやめて」
「え…？」
俺は、Aが撫でていた手を掴んで、胸に引き寄せる。
…子犬じゃなくて、男として、見てもらわないと…
カイとおんなじ土俵に立たないと…カイとAが接近するのを邪魔することはできない。
Aがもう一度カイに…キムジョンインに惚れるなんてことがあったら、俺は…。
「スーツって、キツくてしんどいね。脱がせてよ」
Aの手を、俺のネクタイに持っていく。
「ベク…？」
Aは、いつもと雰囲気を変えた俺に戸惑うように、目をまんまるにして俺を見る。
「…そんな可愛い顔で見ないで。せっかく男っぽくしてるのに、我慢できなくなってまた犬になっちゃうよ」
俺が言うと…察したのか、フッと、妖艶にAは笑う。
「ベクは男の子でしょ？」
…しまった、うっかりスイッチ入れちゃった。
カイに教え込まれた、ファムファタールのスイッチ。
こうなると、主導権は完全にAにある。
…人間の成人済み男性として見てほしい、なんて言っても、今はダメだろうな。
「うーん、オスでいいよ、ビーグル犬のべっちゃん、オス、27歳！」
「ビーグル犬って自分で言うのね。あとビーグルで27歳はあり得ないかな」
よしよし、と、また頭を撫でるA。
「撫でられるの、好きでしょ、べっちゃん」
「うん、好きだよ。心地いいんだ」
あーあ、俺とAの関係は、飼い犬と飼い主のままなのかな…
…やっぱり、嫌だ…ダメだ、そんなの…。
じーっとAの目を見つめると、Aはふっと笑って目を伏せる。
「…目、逸さないでよ」
「ん？どうして？」
…セフナ、今なら、お前の気持ちが少し分かる気がする。
「…その顔、嫌いだ」
頬に手を添えて、唇を貪る。
こうすれば、嫌いな顔を見なくて済む。
余裕そうで、俺を、モノにしてるって顔。
今までは、好きだった顔なのに。
追いかけても追いかけても俺のものになってくれないのが楽しかったのに。
俺は今…よっぽど余裕が無いらしい。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年9月17日 21時
