285.余裕がある人とない人 ページ38
＜ベッキョン＞
…やめてくれよ。
また、惨めな気持ちにさせられた。
あの土下座の時と違って、躊躇いもなく頭を下げられた。
彼の、もう失うものはないという、覚悟が見えて。
その分、余裕があることを見せつけられた。
『大丈夫。あんなやつ、カイのライバルじゃないだろ』
…その通りだから、腹が立ったんだ。
Aは、いくら俺が愛を伝えたところで、俺のことを恋愛対象としてなんて見てくれないだろう。
でも俺には、それを認めて受け入れる余裕はない…。
「騒がしくして、ごめんなさい。そろそろ昼休憩終わる頃だから、みんなオフィスに帰った方がいい。私とベクはちょっと遅れるから、ミンソクさんに言っといて。よろしく」
Aは、胸に顔を埋める俺の髪を撫でながら、隣のテーブルに向かってそう言った。
「…わかった」
カイがそう言う声がして、ガタガタと慌しい音が聞こえる。
「…ごめん、カイ、謝らせて…」
「いいんですよ、ギョンスヒョン」
そんな会話が、段々遠くに聞こえる。
「ベク、行こっか」
「…うん」
俺はAの右腕を両手で握って、連れられるままに食堂を出た。
着いた場所は。
「…やっぱり」
社長室…スホヒョンの部屋。
さすがに解雇かな。
そりゃそうだよね。やっぱり、俺に普通の生活は向いてない。
初日から問題起こしまくりだし。
トントン
Aがドアを叩くと、中から、はい、というスホヒョンの返事が聞こえた。
「失礼します」
俺は観念して、Aと一緒に部屋に入る。
「遅かったね」
社長椅子に座っているスホヒョンは開口一番、微笑みながらそう言った。
「朝、真っ先にクレーム言いに来ると思ってたよ。カイの時はそうだったし」
「そう思ってたんならそっちから来てくれると手間が省けて良かったんですけどね」
Aはそう言いながらソファに座る。俺も隣に座った。
「ベク、問題起こした」
「うん、どんな？」
「折った割り箸で社員のこと刺そうとした…キムジョンインが阻止したけど」
「へぇ、キムジョンインが？」
フルネームで言ったのが気になったのか…俺も気になったけど…スホヒョンは、どこか揶揄うようにそう言った。
Aはスホヒョンを睨む。
「はは、ごめんごめん」
「なんでそんなヘラヘラしてんの、スホ。腹立つんだけど」
「普段通りだよ、俺は」
スホヒョンはにっこりと笑った。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年9月17日 21時
