ユウガオは夜に咲く 6 (ページ27)

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274.確かな幸せページ27

＜ジョンイン＞

「A…？」

「口調は柔かくて素直で優しい、でも一人称は俺でちょっと強引で…抱き方はカイだけど言うことはジョンイナ…誰なの？」

Aは…

おそらく、自分が思うジョンインではないことに、気づいていたんだ。

『…いつまで、ジョンイナでいてくれるの…？』

それはまるで、いつまでジョンインのふりをしてくれるのか、と言っているようにも取れる。

「A、俺は、」

「キムジョンイン、って、言うんでしょ、あの病室での時みたいに」

『…どっち』

『俺は、キムジョンインだよ』

「わからないの…キムジョンインって、誰なの？どんな人なの？ジョンイナとは違うの？カイとも？わかんない…」

Aは頭を抱えて俯いた。

「ジョンイナは…私の大好きなジョンイナは…？」

Aは今にも泣きそうな顔で俺を見上げた。

「…消えたよ」

「うそ…」

…ごめん、そんな顔、させたくないのに。

「ジョンインは、もういないよ」

やっと、はっきり言えた。

「ジョンイナ…」

Aの目から、スルッと涙が流れ落ちる。

綺麗な涙だ。

男をモノにするためのものじゃなく。

純粋な涙。

「…俺じゃ、ダメ…？」

病室で言ったのと同じことを、もう一回言ってみる。

「…心の整理が、つかない…」

「…そう、だよな」

「でも…これだけは…」

「ん？」

Aは、綺麗な目で俺を見上げる。

「今の時間…すっごく、幸せだったのは、確かなの…っ…」

…十分だ。

今の俺には、十分すぎる。

「…それが、聞けただけで、嬉しいよ」

「だから余計…困惑、しちゃって…」

「うん…」

Aの背中を、手でさする。

「俺をすぐに受け入れろなんて、言わないよ。でも…俺は、Aのことを愛してるから。それだけは…知ってて」

「っ…」

Aは、涙を流しながら、窓の外を見た。

そこには、ひっそりと、鉢が置いてあって。

少しだけ、芽が出ている。

『あ、えっと…ユウガオ、だっけ？』

『うん。そう。ユウガオ。まだ種まいたばっかりなの』

『まるで、Aみたいだね』

『ん？』

『夜に、綺麗に咲く』

そんなユウガオの花言葉は…

“はかない恋”。

Aは毎年育てている。

今年は…ちゃんと、育つかな。

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