64.契りと揺らぎ ページ15
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「これ…受け取ってほしい」
「へ…？」
「売り飛ばして、セフンの養育費にすればいいよ」
「そん、な…なんのために…」
「俺が、受け取ってほしいから。形だけでも…見たいから…俺がAのために買った結婚指輪、はめてるところ…」
自分の左手の薬指を見る。
なにも、はまってない。
「それで、俺、当分は生きていける！！頑張って妄想して…Aとの結婚式の妄想して…しばらくは、それで、生きていくよ…」
ベッキョンは、悲しそうな顔をしながら笑った。
…受け取るの？
この指に、元々は、別のものがはまっていたのかもしれない。
記憶が…ない。
結婚式、か…
私とジョンインはその日…契りを、交わしたはず…
そして、指輪の交換をして。
『結婚指輪…結婚、してるの？』
あの日…ベッキョンに言われて、カフェで、記憶の中で初めてジョンインと会った日。
彼は…指輪をしていて。
昨日は？今日の朝は？
どうだったかな…指輪、してたっけ…そんなところ、見てなかったけど。
あの日、結婚指輪をしてきたってことは…
「ごめん、ベッキョン」
「え…」
「受け取れ、ない」
「そんな…ちょっと、はめるだけでいいんだよ！？それだけで、俺はしばらくはこの家に来ないのにっ…俺が毎日家に来るの、嫌なんでしょ！？」
「…うん、そう、だけど…」
「じゃあなんでだよ…これ…Aが、ほしそうにしてたから…俺が、あげたいって思って…ずっと、ずっとっ…」
「ごめん…覚えてるよ、その指輪のことは…」
「えっ…ほんと！？」
嬉しそうな顔をするベッキョン…
「うん…私が、言わなくても…ベクは、私の、ほしい、ものを…」
…あれ。
「私の全てを、受け入れてくれて…」
あれ…なに、言ってるんだろう…。
「A…俺ね、Aのしてほしいこと、全部わかるんだ。たくさん隣で見てきたから、分かるんだ。でもね…」
ベッキョンは、顔を歪めて私を見る。
「Aの嫌なこと…分かんないんだ。俺、特に、生まれつき、人の嫌がることに関しては疎いみたいで…A、全部隠そうとするでしょ？してほしいことはわかるんだ。でも、嫌な顔一つしないから…はっきり言ってくれないと、分かんなくてさ…」
…ダメだ。
心が揺らぐ要因は2つ。
彼と、長く居すぎたこと。
それと…私が、弱いこと。
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年9月8日 22時
